ペット
Q
ブッシュ・ウォークが好きで、よく犬を連れて行くのですが、ブッシュで蛇を見かけたことがあります。もし犬が蛇に咬まれてしまったらどう対処すればいいでしょうか。(30代女性=飲食業)
A
オーストラリアは危険な毒蛇が数多く生息する国として知られています。中でも世界第2位の強毒の持ち主ブラウン・スネーク(Brown Snake)は、餌のネズミを追って民家や裏庭などにも頻繁に出現します。好奇心旺盛な犬や、狩りの習性を持つ猫は蛇に遭遇すると咬まれてしまうことがよくあります。蛇の毒は麻痺を起こす神経毒に加え、赤血球や筋肉の細胞を破壊する酵素なども含むため、症状は時間の経過と共に変化していきます。咬まれた際の症状は、蛇の種類、注入された毒の量、咬まれた場所などにより異なります。
診断
よく見られるブラウン・スネークなどの牙は意外と小さく、毛で覆われた犬や猫は、噛み痕が見つからないこともよくあります。実際に蛇に咬まれるところを目撃していない場合は、診断が遅れてしまうことがあります。蛇に咬まれたことを疑う場合は、血液検査と尿検査で筋肉細胞や赤血球が破壊されているかどうかを調べます。蛇毒の有無と、蛇の種類を特定する検査キットもあります。素人が目視だけで蛇の種類を特定するのは非常に困難です。
症状
初期症状はよだれを垂らす、嘔吐、ふらつきなどが見られます。呼吸困難や失神を起こすこともあります。咬まれてから3~18時間後に、血液の凝固阻害による内出血や、神経毒による全身麻痺などの症状が見られるようになります。咬まれてから数日かけてじわじわと筋肉を破壊する筋毒素もあり、ダメージを受けた血管や筋組織から腎臓にも被害が広がります。治療をしない場合の致死率は70パーセントにもなります。
治療
蛇の毒には解毒剤である血清があり、治療が早いほど助かる確率も上がります。症状が進んでいる場合は輸血や人工呼吸器が必要になることもあり、血清を打っても死んでしまうケースもあります。
もしペットが蛇に咬まれたらできるだけ興奮させないようにし、迅速に獣医に連れて行きましょう。咬まれた所から毒が特定できる場合もあるので、咬まれた部位は洗い流してはいけません。咬まれた部位を上から縛ったり、傷に口を付けて毒を吸い出したりはしないでください。蛇の血清を常備してない病院も多いので、必ず確認してから向かうようにしましょう。
注意
蛇は水辺に近いブッシュに多く見られ、気温が高い春~夏にかけて活動が活発になります。ヘビが自発的に人や動物を襲うことはなく、自己防衛として攻撃してきます。ブッシュ・ウォークでは犬のリードを外さないようにし、蛇に遭遇したら近づいたり、捕まえたりしないようにしてください。オーストラリアの蛇は全て保護動物の対象なので、むやみに捕獲したり殺したりすることは法律で禁止されています。
*オーストラリアで生活していて、不思議に思ったこと、日本と勝手が違って分からないこと、困っていることなどがありましたら、当コーナーで専門家に相談してみましょう。質問は、相談者の性別・年齢・職業を明記した上で、Eメール(npeditor@nichigo.com.au)、ファクス(02-9211-1722)、または郵送で「日豪プレス編集部・何でも相談係」までお送りください。お寄せ頂いたご相談は、紙面に掲載させて頂く場合があります。個別にご返答はいたしませんので、ご了承ください。
戸塚 遊喜(とつか ゆき)
Chatswood Veterinary Clinic
シドニーの現地校を卒業後、シドニー大学の獣医学部を卒業。現在、シドニーのノースショアにある小動物専門病院「チャッツウッド・ベタリナリー・クリニック」に勤務。動物の鍼灸師の資格を保持している。