オーストラリアのアート業界で活躍中のコラムニスト・ルーシーが
オーストラリアを中心に活躍するアーティストと彼らの作品をご紹介。
第13回 ジェニファー・リドル
(Jennifer Riddle)
「Towards the Beginning」
ビクトリア州を拠点に活動するアーティスト・ジェニファー・リドルは、モーニントン・ペニンシュラ地方(VIC州)やタスマニア州の人里離れた南西部、特に「赤い海」で有名なバサースト湾を雰囲気豊かに、かつ写実的に描くことで知られる自然主義の風景画家だ。近年、愛好家たちの間で話題となり、名高い芸術賞で投票により選定される「People’s Choice」賞を複数回獲得するなど、人びとの称賛と脚光を浴びるオーストラリア・アート界きっての期待の新星だ。そして11月8日からQLD州の現代美術ギャラリー・Gallery Oneで行われる彼女の5度目の個展「Land Relics and Reflections」の作品郡の中で、とりわけ注目を集めているのが『Towards the Beginning』である。
英国BBCのドキュメンタリー番組で知られる生物学者デイビッド・アッテンボロー氏が「世界の底にある奇妙でワンダフルな島」と形容したタスマニア。同作品はその個性溢れる大地の魅力を存分に表現している、バサースト湾に広がるたくましい土壌、小さな林、地平線を優しく覆い隠す深い霧、氷河の遺物であるでこぼこのけい岩の崖、手付かずの白い砂利の岸辺やボタングラスの平原が彼女の代表的な作品同様に写実的に描かれている。
彼女は自身を、加速する都市化と破壊的な気候変動の時代によって容易に傷付いてしまう希少で貴重なアーティファクトと表現する。そして、その儚いイメージを魅惑的なアクリル・グリーン、ブルー、そして深みのある茶色などの色相で表現する。そうして見事に切り取られたバサースト湾の穏やかで静かな水面に写し出された彼女のイメージは、後世の人間に失われた自然とのつながりを思い出させるだろう。
「reflection」(回顧)というタイトルには視覚から受ける印象によって得られる調和に加え、哲学的な意味合いも込められているという。「今日、異常気象で大地が脅かされるたびに大切な景観が失われるのではという危惧の声が高まっています。私はこの地の景色から感じる気高さ、美しさ、癒しなどに感化され、失われていく自然との深い結びつきを顧みています」とジェニファー。まさに同作品は、21世紀という時代を写した鏡なのだ。
彼女の作品は、オーストラリア連邦議会(キャンベラ)、シャイア・オブ・モーニントン・ペニンシュラ(VIC州)、エプワース病院(メルボルン)など各地でコレクションされている。個展「Land Relics and Reflections」はGallery One(サウスポート・QLD州)にて11月8〜30日まで開催。
ルーシー・マイルス(Lucy Miles)
オーストラリアと日本のアート業界で25年以上の経歴を持つ。クイーンズランド・カレッジ・オブ・アート並びにグリフィス大学でファイン・アートの美術学士、クイーンズランド大学では美術史の優等学位を取得。現在、QLD州のサウスポートを拠点にファイン・アート・コンサルタントとして活躍中。
■Web: www.lmcuratorial.com / ■email: lmcuratorial@gmail.com
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