脇道 ── Side Streets of Sydney
Through the Camera Lens of Nao Ashidachi
写真家・足達奈穂が切り取るシドニーの風景、そして込められた思いをつづる
突き刺すような強い陽が沈み、店もほとんどクローズし早くから閑散とするオーストラリアの夜。
暗いところでも撮れる高感度フィルムを詰めたコンパクト・カメラを片手に近所を散歩する。
シドニーの夜は東京の夜よりもずっと灯りが少なく、黒い空がとても大きく強調される。
でもなぜだろう、夜道を歩くと東京の夜道を歩いている時とそんなに感覚が変わらない。
昼間は強い日差しが照らす全てが異国感そのもの。
昼間は視覚的に圧倒されるけど、夜はそうか、こんなにも東京を感じられる。
夜道って万国共通なんじゃないかとさえ思えてくる。
この国に来てから2カ月が経った頃、ホームシックになっていた時に撮ったのがこの写真だ。
物質的には、バス停、街灯、道路標示と、私が好きなものが集まっていたので撮ったのだが、精神的にはセンチメンタルな何かを求めていたのだろう。
バス停のすぐ裏手にケネス・スレッサー・パークというとても小さな公園がある。
高台になっているのでオレンジ色の夕日がとても奇麗に見えるので気が向いた時に訪れる。
この時は夜だったので、漆黒に包まれた公園が怖いくらい暗かったことを覚えている。
どこの国でも光が主役になる夜。
人間の視線が少なくなる夜。
そっと孤独を肯定してくれる、弱い人の味方である夜は地球上どこにいても一緒なんだと思わせてくれる1枚の記録だ。
足達奈穂 Nao Ashidachi
ドイツ生まれ。海外転勤の多かった父に連れられ、幼少時代の多くを海外で過ごし、結婚後は夫の海外赴任に伴いオーストラリアへ。2018年よりシドニー在住。14年ごろから東京のストリート・スナップを撮り始め、写真家デビュー。東京の街を舞台にした写真集『boys in tokyo sentimental』を刊行中。現在、東京メトロ×AND STORYの地下鉄車内用広告写真を手掛けている