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バードナッピング

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第75回
バードナッピング

夏に向けどんどん気温が上がってきています。春先から夏の終わりまでは、繁殖や独り立ちのため、野生動物の行動が一番活発になる時期です。そのため、保護される動物の数も10月から11月が最も多く、カランビン・ワイルドライフ病院(Currumbin Wildlife Hospital)で働く私たちは目まぐるしい日々を過ごしています。

けがや病気で保護され治療を受ける動物もたくさんいますが、春から夏に頻繁に保護されるのが、鳥のひなたちです。翼を持って卵からかえる鳥たちですが、羽が生えそろったらすぐに飛べるわけではありません。巣立ちを控えた幼鳥たちは、まだ飛び方を知らないうちに巣から飛び降りて、地面で練習を重ね、1週間ほどしてようやく飛べるようになるのです。木の枝をジャンプして登って巣に戻る鳥もいますが、ほとんどのひなは飛べるようになるまでの間、地面で親鳥から餌をもらって過ごします。

保護されて病院に運ばれたひな鳥たち
保護されて病院に運ばれたひな鳥たち

人間に対して警戒したり威嚇したりすることを知らないひなたちは、人や他の動物が近づいても逃げようとせず、捕まえても攻撃的にならないため、「どこかけがをしているに違いない」と保護されることが多々あります。そうして病院に連れてこられたひなたちは、けががないか、痩せ細っていないかなどをチェックされます。全く異常が見つからない場合、保護された場所あるいはその付近で巣や親鳥の所在を確認してから返されます。すぐに親鳥が餌を与えに来てくれれば良いのですが、ひなの周りに人間がいると親鳥が警戒してなかなか姿を現してくれないこともあるので、離れた場所から何時間も様子を見る場合もあります。

健康なひな鳥を捕まえて親鳥から離してしまう行為を、誘拐(kidnapping)に例えてバードナッピング(birdnapping)と呼びます。しかし実際のところ、ひなが健康かどうかはひと目見ただけでは分かりにくいものです。巣から落ちた時に骨折してしまったり、他の動物から攻撃されてけがをしているひなもたくさんいますし、親鳥が何らかの事情で餌を与えなくなり、飢えてしまっていることもあります。治療が必要だったり、保護された場所に返すことが危険と判断された場合は、親代わりとなってくれる保護士さんの元へ送られます。


床次史江(とこなみ ふみえ)
クイーンズランド大学獣医学部卒業。カランビン・ワイルドライフ病院で年間7,000以上の野生動物の診察、治療に携わっている他、アニマル・ウェルフェア・リーグで小動物獣医として勤務。

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