花のある生活 第44回
─ flower in life ─
道(みち)
時には静かに感じたい「残ざんしん心」という言葉があります。
心残りがするという意味で使う以外に、物事をきちんと終え、新たなことを始める前の静寂を持つという意味があるようです。
一方で、茶道や日本舞踊などの芸道では「残心」は礼法として取り入れられています。華道の世界でもいけられた作品の中に自分の姿が入って初めて完成すると、いけばな教授でもある母から教えてもらいました。
「道」という一文字にも、いくつかの読み方や意味があろうかと思います。近道、脇道、まわり道、どの道筋も弓きゅうどうはっせつ道八節、全ては竹のようにつながっていると思います。
なだらかな丘も、険しい山をも越えることができたら、それは一筋の1本の道となっていくことだと思います。行きつ戻りつしながらも成長できれば、自らの美しい道が確立されるのではないかと考えています。
日豪プレスと共に歩んできた同コラムも5年目となり、時と共に成長を重ねて参りました。ひとえにご愛読頂いております皆様の応援に他ならないと感謝しております。いけばなの技術に特化したものから、華道を通して生活の道標となるようなものへと進化し、現在のスタイルとなっています。千変万化な現代社会に対応していけるような、柔軟性と前衛的なものが兼ね備わっていれば、これからの夢が膨らんでくるのではなかろうかと思います。変化を恐れず、変化を取り入れた新しい形こそ文化芸術においても、大切になってくることでしょう。
今回の作品は道をテーマにいけています。新しい道に向かう前の「残心」さは、人との出会いや記憶を反はんすう芻し、次の扉を開く準備をしていく特別なことだと思います。
先の見えないコロナ禍ではありますが、禍い転じて福となるよう願いを込めて、凛として清々しい万願寺唐辛子と光沢感のある大おおべにうちわ紅団扇(アンスリウム)を扇おうぎに見立て、一筋の道をいけています。
このコラムの著者
Yoshimi
いけばな講師。幼少期より草月流を学ぶ。シンガポールでの華道活動を経て、現在はシドニーでいけばな文化芸術の発展に務める。令和元年には世界遺産オペラ・ハウスで日本伝統芸能祭に出演。華道教室を主宰。オンラインレッスン開催中。
Web: 7elements.me