2020年へ向けて不動産動向を先読みする
不動産 in QLD
ゴールドコースト編
人口増加に伴い高騰してしまったシドニーやメルボルンの不動産価格と比較すると、ゴールドコーストの不動産は、まだまだ値ごろ感があり、暮らしやすい気候とウォーター・フロントや海に近い魅力的な環境も相まって、海外やクイーンズランド州内外からのバイヤーを呼び込んでいる。しかし、世界経済の停滞に付する海外資本の撤退などで、建設中止などのネガテイブな面があることも隠せない。そこで、不動産売買のプロの意見を基に、現在の不動産状況を把握しながら、2020年に向けてのチャンスをモノにするための知識とその展望を探る。
取材協力・記事監修:OPIC 海外不動産情報センター代表取締役 髙田裕司氏
人口の推移で変わる不動産状況
オーストラリア統計局によると、2019年3月時点でのオーストラリアの人口は2,500万人を超え、18年3月からの1年間におよそ1.6%増の38万8千人の人口増加があったという。そして、50年までには1,000万人増の3,500万人に到達することが予測されている。このことから、今後も雇用機会が多い大都市や、暮らしやすく環境的に優れている都市など、人を集める要素を包含する場所に今後もますます住宅需要が増え、不動産売買が活発になると考えられる。
ここ近年、不動産価格が高騰していたシドニーやメルボルンでは、オーストラリア政府による外国人バイヤーに対しての課税や、銀行を始めとする金融機関の新たな規制が加わり条件が厳しくなったことで、買い手の減少と価格の下落傾向が見られたが、0.75%へ更に政策金利が下がった現在、融資条件をクリアできるバイヤーたちが人気エリアの物件を新たに買い始め、価格が上昇してきている。調査会社CoreLogic Home Value Indexの今年10月時点でのデータによると、住宅価格はメルボルンで2.3%、シドニーで1.7%上昇しており、全国平均の価格上昇率1.2%よりも強い伸びを示している。
また、今年9月に発表された統計局の調べによると、ここ近年、他州からクイーンズランド州へ移住してくる人口の増加傾向が見られ、18年3月から19年3月までの1年間に州を越えてクイーンズランド州へ移ってきた国内移住者数は2万3,300人を記録して国内で最も多い。その一方で、下記の図に示されているように、ニュー・サウス・ウェールズ州からは2万2,000人が他州へ流失した状況となっているのが対照的である。
年間の州間移住者数(18年3月~19年3月)
住宅価格の高騰したシドニーなどの大都市に比べると、ブリスベンを含むクイーンズランド東コースト一帯の不動産は比較的買いやすい価格帯にあり、暮らしやすい温暖な気候と海や水辺から近い恵まれた自然環境は居住環境としても高い価値がある。そのため、子どもが家から独立した60~65歳のリタイアメント世代や、シドニーでは住宅価格の高騰で購入が不可能な若いファミリー世代がより良い生活環境を求めて多数移り住んで来ている現状がある。
2020年はチャンス到来の兆し
今年後半から来年中盤にかけては、不動産購入の絶好のチャンスであるとOPIC海外不動産情報センター代表取締役・髙田氏は語る。それは、私たち日本人が不動産を購入する際に考慮する項目として、金利、為替、不動産価格の3つが挙げられるが、現在この3要素がバイヤーにとって今までになく有利な状況にあるからだという。
1つ目の要素として、政策金利は今までにない低金利の0.75%をマークして、さらに利下げが予測されていること。変動金利ローンを組めば、金利が下がった時点で連動するので、低金利の恩恵を100%受けることができる。2つ目は為替レート。金利低下の要因として豪ドルと円の為替相場は円高ドル安基調が続いている。そのため購入に必要なまとまった金額を円から豪ドルへ換金する場合、大いに為替の差益を受けることができる。3つ目は不動産価格。ここしばらくの間、価格の変動は横ばい状態が続いているので、前述の人口増加に伴い、5年から10年後に値上がりすることが見込まれる。その際、為替相場が円安ドル高に反転していれば、売却した際も為替差益を得ることができるわけだ。経済が刻々と変化する中で、20年はまたとない買いのチャンスかもしれない。
明暗を分ける情報量
不動産を購入するに当たっては、いかに多くの情報を入手して内容を正しく理解できるかが明暗を分けると髙田氏はアドバイスする。最近の新築物件の動向として、完成前のプラン上の物件を購入するオフ・ザ・プラン(Off The Plan)があるが、海外ディベロッパーの開発物件では当初の計画が変更になったり、海外資本の撤退で建設着工前に計画そのものが中止になったりするケースがあるため注意が必要だという。新築物件は本当に計画通り進むのかどうかをきちんと見極めるためにも、OPICを始めとする日系不動産エージェントに相談して情報を集め、日本語できちんと説明を聞き、表立って見えていない注意点を十分に把握してから、購入を検討することがその後の明暗を大きく分けることになる。
もしも、他州にわたって物件を探す場合や、自分で物件を探すのが不安な場合は、「バイヤーズ・エージェント」を利用して、自分の予算、条件、希望を伝えて物件を探してもらうことができる。売買が成立した場合、購入費用の約2~3%を手数料として「バイヤーズ・エージェント」に支払うのだが、情報収集から値段交渉まで、買い手の代理人として働いてくれる。
バイヤーが購入前に知っておくべきこと
実際に不動産を購入する段階まで進むと、契約条件とファイナンスを整えることが重要なポイントになる。いくら良い物件を見つけても、バイヤー側が契約上の期限内に銀行から融資承認を得ないと決済まで進まない場合もあり、今までに費やした時間と労力は全て無駄に終わってしまう。そうならないためにも、何よりも早めの資金調達の手配とバイヤーにとって確かな契約アドバイスができる法律家が必要となることを頭に入れておこう。特に、オーストラリアに居住していない海外のバイヤーが不動産購入する場合は、ローカルのバイヤーとは規定が異なる面があるので注意が必要だ。購入前の注意点をそれぞれ以下にまとめる。
■ファイナンス
ローンを組む場合は、物件探しを始める前もしくは同時に、銀行やファイナンス・ブローカーに連絡を取り、自分が果たしていくら借りることができるのか、そしていくら返済していくことができるのかを事前に確認する「プレ・アプルーバル」(ローンの仮審査)を取る必要がある。この「プレ・アプルーバル」の審査は現在、2~3週間ほどかかり、有効期間は3カ月と決められている。自分の収入と資産がいくらあるのか、実際に生活するための費用はいくら掛かっているのか、そして他のローンやクレジット・カードなどの負債はいくらあるのかなど、自分の経済状況をしっかり認識することで、購入する物件の予算や頭金が明確に見えてくる。また、公的調査機関ロイヤル・コミッションからの金融機関への規制が加わったことで、査定が厳しくなり融資額が制限される傾向にあるので、その分準備する頭金もより多く必要になる。日本在住の人がオーストラリアのローカル金融機関から借り入れをすることは不可能だが、デイベロッパー・サイドで海外のバイヤーが利用することができる「提携ローン」のような融資が用意されている場合もある。
■FIRB(外国投資審議会)
オーストラリア居住者でない外国人(永住権や市民権を持たないバイヤー)がオーストラリアの不動産を購入する場合、Foreign Investment Review Board(以下、FIRB)と呼ばれる外国投資審議会の規定によって購入できる不動産が制限されている。購入が可能な不動産は、FIRBの承認を得た新築物件と宅地のみで、中古物件(後述のITRを除く)は購入できないことになっている。そして購入する際はFIRBへの申請手続きが必要となり、これらの手続きは全て弁護士を通じて行われる。海外バイヤー向けの大型プロジェクトの新築物件などは、すでにFIRBの承認済みの物もあるが、近年の傾向としてバイヤー自身が弁護士を通じてFIRBの承認を取得する必要のある新築物件も多いという。その場合、購入する物件の値段にもよるが、承認を得るための申請費用として約5,600ドル~(物件価格による)が経費として必要となる。
■Integrated Resort(総合観光リゾート)
例外として、オーストラリア政府によって指定されたITRと呼ばれるIntegrated Tourism Resort区域内の物件は、新築、中古にかかわらず、オーストラリア居住者でない外国人もFIRBの規定に関係なく購入することができる。そして、このリゾート内の物件であれば、FIRBの承認を得るプロセスも必要とされない。ゴールドコースト内でITR指定を受けているリゾートは、ゴルフ場を伴ったサンクチュアリー・コーブ、ホープ・アイランド、ロイヤル・パインズがある。しかし、近年の注意すべきこととして、リゾート区域内でも2次的にディベロッパーに切り売りされた土地に建設された物件は、ITRの指定から外れ、FIRBの承認を得る必要がある物件もあるため、購入の際は確認が必要である。
■Annual Vacancy Fee(空き家税)
オーストラリア居住者でない外国人が17年9月以降に購入した物件においては、1年間(365日)の内、6カ月(183日)住居の使用がなく空き家の状態が続く場合は、最低でも5,700ドルの税金が課金される。これは、オーストラリア政府が不動産の活発な供給を促すと共に、物件所有者の賃貸収入からの税金を得るための包括的な住宅経済措置で17年12月から導入されている。
■印紙税と土地所有税
居住用不動産の取得時に登記のために支払う印紙税と保持する土地の所有税において、15年からそれぞれの州でオーストラリア居住者でない外国人に対しては、上乗せ課税が導入されている。クイーンズランドでは18年から印紙税は7%、所有税は1.5%の税率となり、更に諸経費が掛かることになった。この上乗せ税率は、住宅価格の高騰の要因とされる外国人による住宅購入を抑制して、オーストラリア人が物件を取得しやすくするための措置として行われている。