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BBKの突撃・編集長コラム 不定期連載第18回
毛布をかけてくれたり眩しくないようサングラスをかけてくれたりなど気配りに加え、座面が動きマッサージを行ってくれるなど非常に心地よい環境だった
オーストラリアの歯科事情を探る
〜後編〜
前号のコラムで僕が「めちゃめちゃ歯に精通している編集者」という称号を手に入れるまでの経緯を書かせていただいたが、その際、括弧で書いた「(同じような経緯からほかにもいくつかの業界に通じている)」という1文に「ほかの業界とは?」と何人かの方から質問を受けた。あまり今回のテーマとは関係ないが今後、何かしらの新たなつながりが生まれる可能性にも期待しつつ、せっかくなので触れてみよう。
実は僕は消費生活系の情報に結構強い。資格を取るなどの具体的なアクションは起こしていないが、例えばファイナンシャル・プランナーになるための勉強をしたり、保険の営業マン用のテキストを読み込んだりした経験もある。もともとそういった分野への適性があったのかもしれないが、そもそものきっかけはマネーのイロハ的な記事を多数執筆する必要に迫られた時期があったためだ。その経験は今でもライフ・プランニングや自身の消費行動の分析、家計の複数口座での管理などさまざまなシーンで役立っている。
さて、そんな中、ある日僕はクレジット・カードと電子マネーの情報に特化したムックを製作するチャンスに恵まれた。日本には古今東西、これでもかというほど数多くの提携クレジット・カードがあり、そのインセンティブもカードによって無数にある。ポイント還元率が高いもの、保険が充実しているもの、電子マネーとの相性が抜群のもの、ポイントの2〜3重取りができるもの、空港ラウンジを使えるもの、など特徴となり得る要素を挙げ始めるときりがない。そういった情報を消費生活評論家の先生を監修に迎え、ともにポイントを整理しながらまとめあげたわけだ。全クレジット・カード会社に連絡し、券面画像やロゴを手配、さらにそれぞれのカードのスペック(年会費、保険、還元率、電子マネーとの提携、発行元などもろもろ)をすべて確認するという途方もない作業を行った同ムックはコンビニの店頭にも並びかなりの人気を博した。
「クレジットカードはメインとサブの2枚持ちがベスト」というのが、当時、例えば『日経トレンディ』(日経BP)などの雑誌でも提唱されたスタンダードであったが、そもそもそれは同ムックで監修の先生が提唱したのが最初だ。その後も発行する出版社を変えながら何冊も制作を手掛けたがその過程で、僕はクレジット・カード、電子マネー、さらに派生するポイント関連ビジネスなどに嫌というほど詳しくなった。専門家でもないのにある有名雑誌からクレジット・カードに関する執筆を依頼されたこともある。また、かつて「ほんまでっか!? TV」(フジテレビ系)などで人気のあった流通ジャーナリストの金子哲雄さん(残念ながら2012年にお亡くなりになられた)と、クレジット・カードの使い方や選び方、お薦めのカードなどすべてにおいて意見が同じで意気投合した経験もある。
とまあ、そんな感じでクレジット・カードなど金融系のネタに非常に詳しいわけだ。さらに挙げればほかにも詳しい分野があるが、書き始めるときりがないので、また機会を改めてみたいと思う。
歯科医師を選ぶ基準
前回は、歯科医師の技術に関する日豪間での違いなどを話題にしたが、オーストラリアで歯科医に行く際やはり大きく気になるのは治療費ではなかろうか。前回に引き続き、シドニー大学歯学部で最初の日本人卒業生であり、長年シドニーで歯科業を営むR先生にそのあたりの事情を伺った。
「治療費は先生の方針によって変わってきます。最先端の治療を優先する先生もいれば、そうではない先生もいます。審美に対する考え方も医院の方針によって異なります。重要なのは患者さん自身がどのようなタイプの歯科医師を好むかということ。先生が治療法を提案した際に、その利点と欠点をしっかりと見極め、それが自分の方針に合っているかを考えることが大切です。そのためには気になることは遠慮なく質問するようにしましょう。治療費はかかっても高いクオリティを選ぶのか、あるいは予算内で最大限できる治療法を選ぶのか。これは服選びと同じで人それぞれの考え方によって変わってきます。同じバジェットで量販店でたくさんの洋服を買うのか、あるいは長く着られる特別な1着をデイビッド・ジョーンズで買うのか。それも人によりけりですよね」
現実問題として多くの日本人が気にするのは、日本では保険の範囲内でできる治療が多く、実際の負担額は比較的低く抑えられるが、オーストラリアではプライベート保険などに入っていない限り保険は適用されず負担額も高いということだろう。
「それを理由にわざわざ日本に戻って治療する人もいます。日本の歯科医師の治療方針が自分に合っているという判断であればそれはそれで良いのですが、あくまで保険診療ができるからという理由であればあまり理由にはならないでしょう。日本の国民健康保険は海外での治療でも適用されるからです」
調べてみたところ、どうやら一時的に全額負担をする必要があるが、後日、申請することで保険適用分の金額が戻ってくるようだ(詳しくは外務省の渡航関連情報等を参照のこと)。つまり、日本の国民健康保険に入り続けていれば清算は後とはいえ、結果的には日本と同じような負担額で治療が受けられるようになるというわけだ。だが、そもそも国民健康保険の保険料は、それなりに高い。その人の置かれている状況により異なるが、少なくとも月に2万円程度はかかるのではないだろうか。歯科治療に保険を適用させるためだけに、月に相応の金額を払うのは得策とは言えないだろう。先生は続ける。
「保険料を支払っているつもりで歯科治療費を貯めておくといいのではないでしょうか。また、治療費が高いということもよく言われますが、症状に対する治療回数の違いも考慮に入れると少し見方が違ってくると思います。日本では治療を複数回に分けて行うことが多いと思いますが、こちらではあえて分けるようなことはありません。日本で仮に1回数千円の治療を何回か行った場合と、こちらで1回ですべてを200ドルで終わらせた場合、トータルでそれほど大きな違いは出てこないことが分かるでしょう」
実際に負担する治療費に加え、毎月健康保険料を払っていることを考えると日本で治療を受けた場合でも実際に家計から出ているお金は少なくないと言える(もっとも、保険は相互扶助の精神に基づくものなので基本的には掛け捨てで、支出として元を取るように考える類のものではないが)。
さて、続いて私たち治療を受ける側である患者における日本とオーストラリアの違いについても聞いてみた。
「日本人の多くは歯がうずき始めるなど何かしら違和感を感じてから歯医者に行く人が多いため、結局治療をすることになり、歯の形が変わっていきます。しかし、それでは歯の現状維持は難しい。日本国内で80歳までに20本歯を残そうという運動をやっていますが、仮に残ったとしても機能していない歯は歯とは言いません。しっかりと健康な歯を残すためには予防をしなければなりません。オーストラリア人の場合は、歯を残すためにいろいろなことを自発的にやり疑問を感じればすぐに質問をしてきますが、日本人はあまり質問をしないのでこちらから推測して教えてあげる必要があります。しかし、なかなか言ったとおりにできない人が多いような気がします」
基本的に受け身の姿勢に慣れている分、自ら言われたことに取り組む前向きな姿勢が薄いというのは傾向としてあるのかもしれない。
実際に診察を受けてみることに
話を聞いているだけでは芸がないので、今回僕も歯の状態のチェックと洗浄をR先生にお願いすることにした。きちんとチェックするのは実はオーストラリアに来て初めて。少なくとも3年以上、歯医者でケアをしていない計算となる。
歯を超音波で洗浄しながら、先生は日常の磨き残しや磨き方のクセ、そして虫歯などをチェックする。痛みを和らげるために超音波の出力は低めに設定され、その分長く時間をかけて丁寧に洗浄を行ってくれた。その間、僕は手鏡で先生が口の中で行っている作業をつぶさに見させてもらった。
「何をしているか知りたいでしょ?」
そう言いながら問題点を説明してくれる。1つ1つ納得しながらの作業に僕は痛みを感じても不安を感じることはなかった。これまで多くの歯科医師にかかってきたが、作業内容を逐一説明してもらったのは初めてだ。作業は実に1時間半ほどにおよび、僕の歯はホワイトニングをしたわけでもないのに白くピカピカになった。
「これが歯本来の輝きです。かつてホワイトニングをしていたと言っていましたが(編注:前回コラム参照)、これでも必要だと思いますか?」
自然な光沢が出ている歯を見て、この状態が保てるのであればホワイトニングは必要ないかもしれないと感じた。その後、親知らずのあたりの磨けていないエリアなどブラッシングが足りない部分を教えてもらい、その磨き方を習った。また、すぐに治療が必要なわけではないとのことだが、複数の小さな虫歯も見つかった。
この日以来、僕は先生の言う通りの方法で歯を磨き続けている。財布から出たお金は決して少なくはなかったが、長きにわたる日々のケアのベースを学べたことの意味は大きい。僕の口腔内の状態をしっかりと観察し、時間をかけて1つ1つ丁寧に説明してくれたからこそ得られたものだ。今後、こちらの歯科事情をしっかりと把握すべく、オージーの医師はもちろん、海外の免許から切り替えた移民系などほかの人種の医院にも足を運び、その違いを見極めていきたいと思う。
<プロフィル>BBK
2011年シドニー来豪、14年1月から編集長に。スキー、サーフィン、牡蠣、筋子を愛し、常にネタ探しに奔走する根っからの編集記者。齢30後半♂。読書、散歩、晩酌好きのじじい気質。