第14回 サーリンバのスモーキー・クォーツ(煙水晶)
Thulimbah, Southern Queensland / Smoky Quartz
QLD州の南西部、NSW州との州境にあるQLD州で一番寒くなる町として知られるスタンソープ(Stanthorp)。グラナイト・ベルト(Granite Belt)という呼び名の通りに花崗岩に覆われたその地域の土壌は、リンゴ、ストーン・フルーツ、ブドウなどを育てるのに適している。
中でもこの地で採れるブドウで造られるワインは絶品で、スタンソープ周辺は国内外から多くの人が訪れる州随一のワイン処でもある。
ラテン語で硯(すず)を意味する「Stan」が付くだけあり、1880年代からスタンソープでは硯の採掘が盛んに行われ、町は大いににぎわった。やがて硯採掘熱が終息すると、採掘されていた土地は次第に農地へと転用されていった。
硯が採れる場所には、石英(クォーツ)、緑柱石(エメラルド)、黄玉(トパーズ)など硬度の高い鉱石が形成されやすいのだが、そのことが同地域の農地特有の問題を生じさせる。耕運機などの重機が、土壌に埋まった大きめの石英によって損傷することが頻発して農家を悩ませるのだが、そうして見つかった石英は、敷地の端や外にわざわざ動かす必要があるのだ。
そんなスタンソープの北にある、大きなリンゴのオブジェが目印の町、サーリンバ(Thulimbah)には、トパーズとクォーツ採掘ができるスワイパーズ・ガリー採掘場がある。何度も石探しに来たことのある場所だが、2018年の山火事で立入禁止となってからはすっかりご無沙汰。それもあって今回は、往時の採掘場の古地図で見つけた別の未開拓スポットを攻めることにした。
ブリスベンから車で約3時間、目的地に到着するとあいにくの雨模様。目当ての硯採掘場跡は、フレンドリーなイタリア系オーナーが営む農場になっている。自己紹介がてら事情を説明すると、「いいよ」と快諾してくれた。
聞けば、敷地内の採掘場跡は現在、貯水池となっているとのこと。オーナーにそこで採れたという拳大の黒く透明な煙水晶など、お宝級のコレクションを見せられ、テンションがダダ上がりする。
早速、池の周囲を探索すると、地面の至る所から石英が顔を出しているではないか。オーナーのお宝とは比べものにはならないほどに半透明でヒビだらけの物だが、とにかく石英がゴロゴロ……。
しかし、これは良い兆候だと思ったのも束の間、降り初めた雨が瞬く間にどしゃ降りに。大急ぎで雨宿りに駆け込んだ木陰で、ふと足元の木の葉をどかすと親指くらいの大きさの黒い塊がギラリと光った。煙水晶だ。雨空にかざして見ると透明なのが分かる大物に興奮を抑え切れない。
雨は一向に止む気配がないため、ここでの石探しは降雨順延とした。良質の煙水晶採掘の新ポイントを見つけた喜びと、片手に握りしめた煙水晶をどんな風にカットするかの妄想に浸りながらの帰路。ああ、これだから石探しは止められないのだ。
このコラムの著者
文・写真 田口富雄
在豪24年。忙しい中に暇を見つけては愛用のGoProを片手に豪州各地を掘り歩く、石、旅をこよなく愛するトレジャー・ハンター。そのアクティブな活動の様子は https://www.treasurehuntingaustralia.com/に詳しく。宝探し、宝石加工に興味があれば必見。前・ゴールドコースト宝石細工クラブ理事長