検索
Close this search box.
検索
Close this search box.

日本料理の魅力は多様性─ジャパン・エキスポ2022トークイベントで感じたあれこれ/出倉秀男の日本料理と歩んだ豪州滞在記

SHARE

出倉秀男の日本料理と歩んだ豪州滞在記
~オーストラリアでの日本食の変遷を辿る~

其の伍拾伍
ジャパン・エキスポ2022

 9月の初旬、日本の観光・文化・食などを現地オーストラリアの皆さんにプロモーションするイベント「ジャパン・エキスポ2022」が、シドニー大学のグレート・ホールで開催されました。

 あいにくの雨模様にもかかわらずホールには大勢の人が訪れ、大いににぎわいを見せました。

 和菓子や酒、米、納豆など日本食の試食販売には人びとが長い列を成し、生け花や書、折り紙の実演や、着物の販売所などにも人集りができていました。特にステージで行われるパフォーマンスなどの催し物に聴衆はとても熱い視線を送り、ステージ上のパフォーマンスが会場の熱量に押され気味なほど。誰もが日本への観光復活を待ち望んでいるように感じられました。

 このイベントに私も参加する機会を得ることができ、15分ほどですがステージ上で、「Japanese Future Cusine in Australia」というテーマで、JETROシドニー事務所の高原正樹所長とのトークを行わせて頂きました。

 半世紀にわたりオーストラリアにおける日本料理の変遷を見てきた私としては、この10年ほどの流通網の発達、ネット社会が変えた飲食業界・日本食材の海外への進出の加速などについては、ある程度予期してました。しかし、Covid-19という、ある意味、これまでの世界の動きを完全に止めてしまったウイルス感染症による大打撃は、当然のことながら予想できませんでした。

 15分という短い時間で、そのようなテーマに沿った話を進めていくのはなかなか簡単なことではありませんが、高原所長はプレゼンテーションに慣れておられ、華やかにそしてスムーズに会話を進行し、私は心置きなくテーマに集中できることができました。楽しみにしていた高原所長とのコラボレーションも、あっという間の出来事という感じで無事に終えることができました。

 イベントで私がいつも楽しみにしているのが「人との出会い」です。会場にいらっしゃっていたのは20~40代の人が多かったでしょうか。彼らが生まれ育った時代は、私は日本食文化の普及においてさまざまなことにチャレンジし、成功と失敗を繰り返し、懸命に突っ走っていたころです。当時を振り返ると、会場となった大学はかなり様変わりしましたが、長い歴史を感じさせるグレート・ホールの重々しい雰囲気は全く変わりありません。

 トークの冒頭、私はまず客席に向けて、「日本料理の魅力」を尋ねました。するとある男性から、「Diversity(=多様性)である」という答えが返ってきました。さまざまな移民が共存するオーストラリアには民族の多様性がありますが、日本料理においてもその多様性に魅力を感じるとのことでした。

 実は私自身もこの点、特に地域食に注目していましたので、真っ先にこの答えが聞けたことをとてもうれしく感じました。日本料理の多様性は今後、世界から注目されていくことになるであろうと予測しています。

 トーク終了後、この男性が、私が最初に出版した本を持ってきてくれて、40年前に残した私のサインが記されていているのを見せてくれ、とても感動しました。私はそのサインの横に「It is very nice meeting with you after 40 years!」と付け足し、再会を喜び合い、記念に写真撮影をしました。更に40年後、というのははきっとないでしょうが……。

 活動を支えてくれたオージーの友人、オーストラリア在住の日系人の方々、更には日本からの支援のおかげで、私はこの日本食文化の普及活動を続けてこられているのは間違いありません。また、私とは方法は違えど、オーストラリアで日本食文化を伝えてこられた方々、今はもう世を去られた方々も含め、1人ひとりの知とエネルギーがつながっているということを、このイベントを通して感じることができました。

 私は80歳に向かいながらも、これまで続けてきた活動を、形やスタイルが変わっても続けていきたいと、日々研鑽しています。そして、今回のイベントのように、さまざまな年齢やバックグラウンドが異なる人たちと交流の機会を、今後も持てることを願っています。




■Be Inspired, Food-Wine-Travel by Roberta Muir
Web: be-inspired-food-wine-travel.com

このコラムの著者

出倉秀男(憲秀)

出倉秀男(憲秀)

料理研究家。英文による日本料理の著者、Fine Arts of Japanese Cooking、Encyclopaedia of Japanese cuisine、Japanese cooking at home, Essentially Japanese他著書多数 。Japanese Functions of Sydney代表。Culinary Studio Dekura代表。外務省大臣賞、農林水産大臣賞受賞。シドニー四条真流師範、四條司家師範、全国技能士連盟師範、日本食普及親善大使。2021年春の叙勲で日本国より旭日双光章を受章。





SHARE
文化の最新記事
関連記事一覧
Google Adsense