今年の消費量5%が不足へ 規制当局が警告
エネルギーの需給バランスを監視しているオーストラリア競争消費者委員会(ACCC)は27日、ガス市場に関する報告書を発表した。それによると、同国の人口が集中する東部一帯では今年、連邦政府の介入にもかかわらず、ガスの供給が不足する可能性があるという。
公共放送ABC(電子版)によると、ACCCは国内市場全体で年間消費量の約5%に相当する30ペタジュールのガスが不足するとの見通しを示した。
ACCCのジーナ・キャスゴットリーブ委員長は「東部のガス供給の予測は改善したものの、液化天然ガス(LNG)生産企業は依然として国内の供給不足を解決するのに十分な量の契約を締結していない」と指摘した。
世界最大のLNG輸出国に
オーストラリアは世界有数の天然ガス産出国。天然ガスの運搬には、気体のまま比較的短距離をパイプラインで運ぶ方法と、沸点であるマイナス161.5度以下の超低温で液体にした「液化天然ガス」(LNG)の状態で専用タンカーに積み、遠距離を運ぶ方法がある。オーストラリアではLNGの生産が伸びており、カタールを抜いて世界最大のLNG輸出国(2021年=連邦産業省)となっている。
主産地は海底ガス田の大規模開発が進む大陸北西部沖で、全国のガス生産量の66%を占める。しかし、人口が比較的少ない西オーストラリア州向けのパイプライン供給を除けば、大半が液化されてLNG船に積まれ、主に中国や日本、韓国など東アジア向けに輸出される。主な国内の需要地であるシドニーなどの東海岸の大都市までは直線距離でおおむね4,000キロと遠すぎるため、パイプラインでの陸上輸送は現実的ではないとされる。
一方、石炭層から抽出する「コール・シーム・ガス」(CSG=炭層ガス)は掘削時に薬品を使用するなど環境負荷が高いとして一部で反対運動が根強いが、北東部クイーンズランド(QLD)州内陸部で生産が拡大している。QLD州産のCSGも液化プラントや積出し港などのインフラが整備されており、海外市場が主眼となっている。生産量は全体の約4分の1、東海岸では3分の2を占める。
政府が価格介入もガス生産企業が抵抗
オーストラリアのガス生産企業はこれまでLNG輸出に注力してきたため、国内への供給が後回しになった格好だ。特に人口が集中する東部では近年、製造業や家庭向けの天然ガス供給が不足し、価格が上昇していた。
加えて、ロシアによるウクライナ侵攻でロシア産天然ガスの欧州向け供給が打撃を受け、国際価格が高騰。22年3月のピーク時には、天然ガスの国内卸売価格も1ギガジュール当たり100豪ドルまで上昇した。その後下落してはいるものの、エネルギーの急激な値上がりは約30年ぶりの激しいインフレの主因の1つとなり、家計を脅かしている。
このため、連邦政府はガス・石炭価格に介入することを決定。22年12月に競争消費者法を改正し、ガスの卸売価格の上限を1ギガジュール当たり12豪ドルに制限した。政府は価格上昇を抑える効果を強調しているが、ガス生産企業は新たな契約を拒むなど政府介入に抵抗する動きを見せている。
■ソース
ACCC forecasts 2023 east coast gas shortage, despite federal government intervention(ABC News)