シドニー発祥のメキシコ料理ファストフード・チェーン「グスマン・イ・ゴメス」
オーストラリアで急成長しているメキシコ料理ファストフードのフランチャイズ・チェーン「グスマン・イ・ゴメス」。オーストラリアと海外に180店舗以上を展開し、売上高10億豪ドル超えも視野に入ったが、成功までの道のりは苦難の連続だった。メディア大手「ニューズ・リミテッド」(電子版)が伝えている。
きっかけはボンダイ・ビーチの写真だった
グスマン・イ・ゴメスの共同創業者で最高経営責任者(CEO)のスティーブン・マークスさん(50歳)は、米国ニューヨーク生まれ。父親は薬物中毒で収容されていたため、マークスさんら3人兄弟は母親に育てられた。恵まれない幼少時代の経験から「いつかは起業家になる」との夢を抱いていたという。
社会に出て最初に就いた職は、道路工事の作業員だった。Tシャツの販売員などを経て大学へ入学。卒業後はニューヨークの金融街「ウォール街」でヘッジファンド(富裕層などから大口の資金を集めて高い運用益を目指す機関投資家)に就職し、後にロンドンに拠点を移した。
「ロンドンに引っ越してから初めてオーストラリア人に出会って、ボンダイ・ビーチの写真を見せてもらったんだ」(マークスさん)
美しいビーチの風景に魅了され、片道切符でシドニーへ飛んだ。当初は、ボンダイ・ビーチにホテルを開業しようと計画したが、オーストラリアでは政府の規制が強かったため断念。ファッションのビジネスや音楽レーベル、パディントン(シドニー東郊)のバーなどを手がけたが、どれも鳴かず飛ばずだった。
全財産注ぎ込み、資金枯渇のピンチに
そんな頃、故郷のニューヨークと比べて、オーストラリアにはメキシコ料理のレストランが極端に少ないことに着目。ビジネスチャンスが眠っていると考えた。プロの料理人をメキシコから呼び、同郷のニューヨーク出身の共同経営者、ロバート・ハザンさんといっしょに、メキシコ料理のファストフード・チェーンという新業態を立ち上げた。
芸術家や若者の町、シドニー西郊ニュータウンに1号店をオープンしたのは、今から17年前の2006年のことだった。
金融の仕事で貯めた巨額の資金を新事業に注ぎ込んだ。「ウォール街で働いて貯めた数百万ドルの資金があったから、僕はラッキーだった」と振り返る。
ところが、マークスさんの読みは外れた。オーストラリアにはもともとメキシコ料理の需要がなく、浸透させるまで長い時間がかかったのだ。
ニュータウンの1号店は低調だった。「うまく行っているように見せないと」と思い、ボンダイ・ジャンクション(シドニー東郊)に2号店、キングス・クロス(同)に3号店と拡大したが、いずれも経営はパッとしなかった。
「いよいよ手持ちの資金が尽きそうになり、恐ろしい思いをした。でも一切、妥協はしなかったんだ」
今年30店舗の新規出店を計画
メニューの改善を重ね、新店舗でブリトーを無料で振る舞うなどメキシコ料理の普及に力を注いだ。収支がトントンになるまでに開業から2年、自分の給料を払えるようになるまでには5年の年月を要したが、ある日を境に「損失がどんどん減り始めた」という。
創業から17年。オーストラリア国内だけではなく海外進出も果たし、シンガポールに15店舗、日本に4店舗、米国に2店舗を展開。今年中に合計30店舗の新規出店を計画している。コロナ禍のロックダウン(都市封鎖)は、持ち帰りや宅配の需要が増え、むしろ追い風となった。
売上高は昨年、5億豪ドルを超え、今年は7億豪ドル以上を見込む。25年には10億豪ドルを突破する見通しだ。
現在では、2秒当たり1個のブリトーが売れ、1週間当たり平均70万人が利用するという。
「昨年、仕入れたアボカドは850万個。スーパーマーケット以外では、私たちが最も多くアボカドを購入しているんだ」