Quartz
いつもと違い、妙に気合の入ったタイトルが示すように、今回と次回は、いつものような石探しの紀行文ではなく、鉱物について知る時に非常に大切な、ある石について書きたいと思うので、よろしくお付き合いのほどを。
今回の主役、石英。その名を耳にしたことのある人も少なくはないだろうが、いわゆるクオーツと書いた方がより通じるのかもしれない。二酸化ケイ素(SiO2)が結晶化した硬度7程度の鉱物のことを石英と呼び、透明の石英が六角柱状に形成されると水晶になる。
オーストラリアは言わずと知れた金の産地だが、実はこの石英、金とその採掘の歴史に深く関わりがある。と言うのも、「金鉱脈を探すならば、まずは石英脈を探せ」というのが鉱業界の常識。
火山から吹き出たケイ素や金を含むマグマは、地表を流れる行程で地下水を熱し、そこにマグマから分離したケイ素と金が共に沈殿して冷やされる。ケイ素は、共に沈殿した金を取り込みながら固まって石英となるので、金鉱脈は石英脈の中に形成されることが多いのだ。2023年3月、VIC州で見つかった25万豪ドルの価値がある4.6キロの金塊は、真っ白な石英の中にびっしりと埋まっていた。
石英とは、基本は無色透明もしくは白色の物を指すが、混入物により変色したり、形成する温度が違い、それぞれ呼び名が変わってくる。
紫色なら2月の誕生石アメシスト(紫水晶)。柑橘類が語源で黄色のシトリン(黄水晶)は鉄分を含んだ水晶、アルミニウムが入って黒くなるとスモーキー・クォーツ(煙水晶)となる。チタンを含む桃色のローズ・クォーツ(紅水晶)にはドーム状に研磨してから太陽光に当てると表面に光の筋が現れる、いわゆるスター効果の出る物もある。
それだけではない。透明でも中に不純物(インクルージョン)を含む物も多く見られ、金色の柱状があればルチル・クォーツ、水晶の中にうっすらと水晶の模様が浮き上がるものはファントム・クォーツ、緑色に金色の不純物があると砂金石(アベンチュリン)。逆に石英が混入した物もあり、例えば、アスベストに染み込み硬質化したものは猫目石(タイガー・アイ)となる。
たくさんの細かい石英の結晶が集まり半透明になると、玉髄(カルセドニー)と名を変える。これも形成時に混入する他のミネラルにより色が変わり、色ごとに呼び名が違う。
基本は白濁色だが、緑色になると緑玉髄(クリソプレーズ)、赤色は紅玉髄(カーネリアン)、他に紫、青、桃色も産出される。
更に、この玉髄が縞模様になると瑪瑙(アゲイト)となり、この独特の縞模様も産地により色が変わってくる。当連載でも既に訪れたオーストラリアで一番有名な瑪瑙の産地、QLD州アゲート・クリーク(Agate Creek)産は緑、黄、赤、白色。NSW州北部マウント・ワーニング周辺からは青、黄、灰色から成る瑪瑙が採れる。
その瑪瑙にも種類がたくさんあり、青と白の縞模様のレース・アゲイト、黒の縞模様のオニキスなどは有名だ。少々ややこしいが、縞模様がなくても瑪瑙に分類されるものもあり、白濁色に深緑の不純物があるとモス・アゲイト、更に半透明ではなく不透明で白と桃色の縞模様になるとポーセリン・アゲイトと呼ばれる。
ふー、と、ここまで、まさに百変化……。プロでも覚えるのが大変なくらいのバラエティー。宝石の世界は本当に奥が深い。ということで、今回は少々詰め込み気味になってしまったが、石英とそこから派生するさまざまな石について知ってもらう機会になればと願う。
ふんだんに写真も載せたので、もし何か気になる石が見つかったのであれば幸いだ。(この稿、続く)
このコラムの著者
文・写真 田口富雄
在豪25年。豪州各地を掘り歩く、石、旅をこよなく愛するトレジャー・ハンター。そのアクティブな活動の様子はYouTube(https://www.youtube.com)やインスタグラム(@gdaytomio https://instagram.com/leisure_hunter_tomio)に詳しい。宝探し、宝石加工に興味があれば必見。前・ゴールドコースト宝石細工クラブ理事長。23年全豪石磨き大会3位(エメラルド&プリンセス・カット部門)