来年、小生は80を迎えるにあたり、それなりに健康で、食に関わる仕事が続けられ、日々の生活を送れていることが当たり前でなく、私はとても運が良かったと感謝しています。
そして、戦後の食糧難と飽食の時代を経験した今、思うのは、食を通じて何を残していきたいかということです。
というわけで、今回は、私が以前から気になっていた、2009年よりシドニーでマクロビオティック(以降マクロビ)教室を主宰されている、「Soramame Macrobiotic」の池田恵子さん(福島県会津出身)を紹介します。
池田さんは、1990年に語学留学のためお子さんたちを連れて来豪しました。そして語学コースが修了し帰国すると、長年にわたって旅行会社の出版部に勤務し、オーストラリアを紹介する出版物の編集に携わります。
その後、リーマン・ショック時に会社が閉鎖。それを機に、ずっと興味があったマクロビを学ぶため、「KIJクシマクロビオティック」で久司道夫氏に師事。指導者養成ディプロマを取得しています。
池田さんはシドニーでの料理教室を定期的に開催されており、少人数のクラスでレッスンは丁寧と評判です。
生徒の7割が日本人で、ローカルの人は3割ほど。男女比は女性が8割で、男性が2割。年齢層は10代から60代まで幅広く、人気のクラスは「みそ作り」「漬物」「おせち」「ビーガン寿司」など、日本的な要素が入ったものだそうです。
生涯にわたって元気でいるための方法として伝承されてきた、日本発祥の食養生法とされる「マクロビオティック」。言葉としては、英語圏の人たちの中で認知度が高いためか、それまで健康的な食事をしていなくても、興味を持つと素直に吸収してくれるので教えやすい、と感じているそうです。
料理、試食と進む内に、ほぼ全員が穏やかで落ち着いた感じになり、「心からおいしいと感じる」と言ってもらえることが励みになると言います。
また、池田さんは地元小学校での料理教室、レストランのビーガン・メニューの監修、半断食デトックス・リトリートを開催する他、製品開発を行う「soramame koji house(ソラマメ・コウジ・ハウス)」を立ち上げています。
池田さんはそこで、日本の伝統食である麹とオーストラリア産オーガニック玄米をした「Ama-KOJI」、ミネラルを残した塩にこだわった「SHiO-KOJI」、オーガニックのたまり醤油を使った「TAMARi-KOJI」の製造・販売もしています。
オーストラリアでの日本の発酵食品の人気具合を尋ねると、「発酵食品の中でも人気が高く、認知度が高いのは、何と言っても酒とみそです。塩麹などの麹製品もだんだん注目され始めています。soramame koji houseの麹製品は、ハイエンドのイタリアン・レストランやフュージョン系レストランからの注文が多いですね」と話します。
「マクロビオティックは、難しいとか、面倒だ、という印象を持つ人が多いのですが、実は材料も調理の仕方もシンプルで意外と簡単、かつとても健康的な料理です。
ゴミも少なく洗い物も簡単になる。忙しい人にこそ取り入れて欲しいメソッドであることを強調し、広めていきたいですね。
また、長時間にわたってハードな仕事をしているレストランの従事者たちは、食に関わりながらも自らの健康を害している人が意外に多いものです。自分たちの健康を守るためにも、ぜひメニュー研究をしてもらいたく、その手助けをできたら」と、池田さんの活動は精力的に続きます。
食とは、単に胃袋と欲望を満たすものと思いがちですが、体の声に耳をすませて食べ物を頂くと、体が変わる喜びに気付けるかもしれません。
「soramame koji house」の麹製品は、週末のマーケット(キングスクロス、マリックビル)にストールを出店中のオーガニック・ベジ・ショップ「True Blue Organics」でのみ販売されています。
その他、購入希望の方やレストラン向けには、直接の注文販売も受け付けているそうです。興味のある人は、ウェブサイト(www.soramame.com.au)とインスタグラム(@keikosoramame)で詳細を見ることができます。
このコラムの著者
出倉秀男(憲秀)
料理研究家。英文による日本料理の著者、Fine Arts of Japanese Cooking、Encyclopaedia of Japanese Cuisine、Japanese Cooking at Home, Essentially Japanese他著書多数。Japanese Functions of Sydney代表。Culinary Studio Dekura代表。外務省大臣賞、農林水産大臣賞受賞。シドニー四条真流師範、四條司家師範、四條司家公認天日大膳宗匠、全国技能士連盟師範、日本食普及親善大使。2021年春の叙勲で日本国より旭日双光章を受章