オーストラリア国籍作家の人権問題は「提起した」と首相
2016年以来7年ぶりの首相訪中は、豪中の対話再開を印象付けた格好だ。2020年に豪中関係が決定的に冷え込んでから3年。今年に入り中国はオーストラリア産の石炭や大麦の禁輸を解除、ワインも再開の見通しが立つなど、「オーストラリアいじめ」と揶揄された経済制裁は緩和が進んだ。中国人団体旅行客のオーストラリア渡航は解禁され、中国がスパイ容疑で拘束していたオーストラリア国籍のジャーナリスト、チェン・レイ氏も10月に帰国。訪中の環境は整っていた。
しかし、ウクライナ戦争やイスラエルとハマスの衝突が拡大するなど世界の地政学リスクが増す中で、ロシアやイランと対立する米英豪の陣営としては、海洋進出を加速させ、武力による台湾統一の可能性を排除しない中国をなんとしても封じ込めたいところだ。「一帯一路」の下でいわゆる「債務の罠」を仕掛け、途上国に影響力を拡大させる中国のやり方も放置できない。アルバニージー首相は訪中に先立って米国を訪問し、バイデン米大統領らと対中戦略を入念に打ち合わせた形跡がある。
習近平氏との首脳会談後の記者団との質疑応答で、アルバニージー首相は「オーカス(AUKUS)は特に話題にならなかった。地域の安定については議論した。台湾については現状維持を支持するオーストラリアの立場を繰り返して説明した」と述べた。
オーカスは、オーストラリアに原潜の配備と新型艦開発を進める米英豪の安保枠組みだ。太平洋とインド洋で対中抑止力強化を狙った、事実上の中国包囲網であることに疑いの余地はない。首相の発言からは、習氏との間で安保問題に関する突っ込んだ議論はなかったことがうかがえる。
また、レイ氏の解放は実現した一方で、人権をめぐる課題は残る。中国が2019年にスパイ罪で逮捕・起訴したオーストラリア国籍の作家・ブロガー、楊恒均(ヤン・ヘンジュン)氏の問題ついて「(会談で)提起したか?彼の解放に向けた望みは?」との記者団の質問に対し、首相は「提起したことは間違いない」と述べるにとどめ、詳細に関する言及を避けた。
米英豪で先頭を切って首脳訪中を実現したオーストラリアだが、オーカスで原潜配備を進める中、対中で独自外交の余地は小さい。経済優先の対中外交が続きそうだ。
■ソース
PRESS CONFERENCE – BEIJING – PEOPLE’S REPUBLIC OF CHINA, Transcript(Prime Minister of Australia)
DIALOGUE KEY TO RELATIONS WITH CHINA, Media Release(Prime Minister of Australia)