自己紹介:葡萄ファームズ/Budou Exporオーナー・松﨑絢子
私は、VIC州のミルデュラという町で生食用ぶどうのファームを経営しています。また、オーストラリアのぶどうをメインに青果物を世界へ輸出する2つの会社を経営し、一児の母でもあります。現在は、「日本人が作るオーストリア産ぶどう」「俺のぶどう」「エンリケさんのぶどう」として、ワイズマート、カスミ、ヤオコー、イトーヨーカ堂、東急ストアなどの日本のスーパーをメインに販売し、香港、ベトナム、ドバイなどにも輸出しています。
18年前にワーキング・ホリデーでオーストラリアに来ました。日本ではアパレル勤務でキレイな物に囲まれて仕事をするのが好きだった私。都会の真ん中をハイヒールでカツカツ歩いていたタイプでした。ファームの仕事は嫌でしたが、セカンド・ビザを取得するために仕方なく始めたのが、人生で初めてのファームの仕事。大嫌いな虫だらけ、暑い、寒い、汚い、外仕事。まさか、その10年後に自分のファームを持ち、自ら率先して、汚い格好で働いているとは、その時の私は思ってもいませんでした。
オーストラリアに来て8年目、夫が町を歩いていた時、不動産屋さんの張り紙で見つけたぶどうのファーム。ファームをその場で衝動買いし、私自身は、夫がファームを買ったという事後報告で知ることとなりました。もともと農学者である夫ですが、正直、この時点で、小さな町では、笑い者でした。外国人がどこまでできるか、お手並み拝見といった感じでした。当時妊娠していた私は、その1週間後にはつわりでゲロゲロしながら、ファームを始めたのです。この10年間、ファームが軌道になるまでは、とにかく休みなく、娘をおんぶしながら働いてきました。出産の前の日まで、ファームで働き、産んでから10日で、娘を前抱っこしながら、おっぱいをあげながらピッキングという、ファーマーとしても、母親としても、何もわからず手探りで一生懸命なファーム・オーナーのスタートでした。
現在43歳。苦労ばかり、壁ばかりの怒涛の10年間を経て、会社経営も母親業も少しだけ要領をつかんでホッとしていますが、今も毎日がチャレンジです。この連載では、そんな私がオーストラリアのファームで働くことを通して見えてくるファームの仕事事情、母親業、女性が働くこと、オーストラリアで農業をすること、海外で働くこと、女性でありながらガテン系の仕事をすること、オーストラリアで起業することなどを書いていきたいと思っています。
大切なのはフレキシブルな感覚とフットワークの軽さ
オーストラリアのファーム経営者の多くは、働いても経営とトラクターの仕事がメインだと思います。オーストラリアでファームを経営していても、海外に住んでいる経営者がたくさんいて、投資家と共同で経営しているファームも多い中、私はワーホリの若者たちと一緒にファームで働きます。ファームの人事も私の仕事の1つなので、ワーホリの人たちとはすごく距離が近いです。どんな風に考えているのか、どんな仕事が欲しいのか、よく話をします。その中でよく言われるのが、週5日で午前9時から午後5時までなどオフィス勤務のような時間帯で働きたい、もしくは、時間や収入を約束して欲しいということです。セカンド、サード・ビザの日数カウントもあるとなおさらだとは思います。
今回1つだけお伝えしたいのは、農業は経営者の私たちでも天気には勝てないということ。経営者でさえも、天候に左右され、農薬や水の管理を急に変更したり、作業を途中で変更したり、収穫を止めたりなど急な変更というのは多いです。そういう環境のため、働く前に言ってたことと違うと言われてしまうことがあります。もしくは、悪徳ファームと言われてしまうこともあります。「仕事あるある詐欺」では、ありません。それが農業なのです。もちろん、ピッキングの仕事より、パッキングの仕事は、少しだけ計画的に働けるかもしれません。言い方が悪いですが、カジュアル・ジョブは、いつでもクビにできる代わりに時給が高いのです。
そういったことから、ファームの仕事をするに当たり心構えをするなら、「フレキシブルでフットワークを軽くしておくこと」が大切だと思います。仕事がすごくできる人であっても、急にクビにされることもありますし、逆に言えば、急に人材が必要になることもあるのです。私も、明日、数人欲しいということがあったりします。例えば、セカンド・ビザのために日数をカウントする必要があってファームで働きたいのなら、クビにされること、天候によって仕事がなくなることなどを踏まえ、5カ月くらいの期間を考えておいた方が良いと思います。
また、1つのファームで3カ月働こうとせず、考え方もフレキシブルでいることが大切だと思います。私自身もワーホリの時は、何度もクビになり、初めはすごくショックだったのですが、そんなに落ち込むことでもありません。仕事場が合う・合わないということもありますし、シーズンが終わってしまったり、急に出荷ができなくて、人員を減らさないといけないという場合もあります。そんな時は、「これも経験でピンチはチャンス」と捉え、たくさんの人に出会い、新しいことをする第一歩と思ってくださいね。
Profile
松﨑絢子
葡萄ファームズ及びBudou Exportの経営者。オーストラリアVIC州で、生食用ぶどうを生産し、日本を中心とするアジアに輸出している。日本では大手スーパーマーケットで販売中。共同通信グループNNAオーストラリア発行の農業専門誌「ウェルス」で、「南半球でブドウを作る VIC州農園ダイアリー」も連載中。一児の母。
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