執筆者=鴨粕弘美(NSW州立美術館日本語ボランティア・ガイド)
現在開催中の「カンディンスキー展」では、1月21日から日本語ハイライト・ツアーが始まります。ツアーに参加頂くことで、抽象絵画芸術開拓者の1人、モスクワ生まれのワシリー・カンディンスキー(1866~1944)の作品をより深く楽しんで頂けます。今回は幾つかの作品をご紹介します。
展覧会場に入ると、その色彩の美しさに目を奪われます。まず目に入るのは、「Blue Mountain」(1908-09)。中央の青い山を背景に、黄色やピンクで彩られた木々の間を突き進む騎士団。感情を反映する色彩で描くことを目指した画家にとって、青は最も精神に響く色と言われています。1896年、30歳のカンディンスキーは、法学者、経済学者としてのキャリアを捨て、前衛芸術活動の中心、ミュンヘンに移住し、芸術家として出発します。社会を変える芸術家として従来の美的価値観との聖戦に挑もうとする決意を感じる作品です。
「Improvisation 28」(1912)は、抽象化されつつ具象的要素も残る作品。音を色として感じる“共感覚”を持つ画家が魅了された、音楽の専門用語を冠したシリーズ作品の1つです。第1次世界大戦に向かう当時の社会背景が投影され、画面を2分割し、激変する出来事と救済・再生が描かれています。
「Composition 8」(1923)は、バウハウスで教職に就き、理論を深める画家本人が、最も完成度が高いと称した作品です。カラフルで相互作用的な多数の円、三角形、直線などの幾何学的形態が、ダイナミックさと静けさを感じさせる画面。さまざまなものが響き合う音楽の交響楽的な作品シリーズの1つで、米国の実業家であったソロモン・R・グッゲンハイム(後に美術館の創設者となった)が、1930年にカンディンスキーと初めて会った際に購入し、その後の両者の関係の重要な試金石となった必見の作品です。
「Around the circle」(1940)は、第2次世界大戦中に移り住んだパリで制作された最後の大作の1つ。永遠の静寂のように聞こえる「黒」と最も安らかな「緑」による穏やかな背景の画面に、これまでも登場してきた画家のあらゆるモチーフが置かれ、目のように浮く円。カンディンスキーの生涯の目標であった「芸術における精神の表現」がここにあります。
日本語ハイライト・ツアーは毎日曜日に催行。最終は3月3日、展覧会期は3月10日までです。
Art Gallery of NSW
ニュー・サウス・ウェールズ州立美術館。常設展入場無料。本連載は美術館の日本語ボランティア・ガイドが担当。「件名:Japanese Tour」でEメールによる日本語による問い合わせ可。
Web: www.artgallery.nsw.gov.au
Email: volunteerg@ag.nsw.gov.au