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“de facto”はラテン語から─一般人には理解しづらい言葉、法律用語は役に立つ?/日豪プレス 法律相談室 第94回

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オーストラリア弁護士として30年以上の経験を持つMBA法律事務所共同経営者のミッチェル・クラーク氏が、オーストラリアの法律に関するさまざまな話題・情報を分かりやすく解説!


 最も語彙の多い言語は何語だと思いますか? 答えは英語です。オックスフォード英語辞典には、現在使用されている英単語が約17万語記録されており、“Covid”や“Bitcoin”のように、ほぼ毎日新しい単語が生まれています。

 「法律用語」は英語で“Legalese”と呼ばれ、有用な機能があります。例えば、弁護士が契約書ドラフトを作成中、別の弁護士がそれを読んだとしても、文書内容が明瞭かつ正確に伝わります。では、弁護士がクライアント向けに作る文書はどうでしょうか。

 優秀な弁護士は、法律用語(同僚弁護士や裁判所との間で使用する)と平易な言語の使用の切り替えが上手です。法律に詳しくない人、特にクライアント向けには、法律用語の使用を控え、分かりやすい言葉を使います。

特定の概念を簡潔に捉えた法律用語とその意味
(例):
Ademption: 遺言で贈与されたものがもはや存在しないため、贈与を行うことができない 
Adjourned sine die: 裁判の次の期日が決まっていない
Arraignment: 法廷で罪状の詳細が読み上げられ、被告人が有罪を主張するか無罪を主張するかを問われる手続き

 マッコーリー辞書の2023年の流行語大賞“Cozzie Livs”は、「コスト・オブ・リビング(生活費)」の略です。この選出は、伝統的な英語が失われていくことへの失望感からか、多くの議論を呼びました。しかし、言語は堆積してきたものであり、そのデータバンクは時代の波によって変化します。

 英語(法律用語も含める)が適切であるためには、その移り変わりが絶え間ないものでなければなりません。まだ発見されていない新しい言葉が、将来、私たちを待ち受けていることが想像できますね。

 法律用語は、混乱を招くこともあります。法律文書の文章は非常に長いだけでなく、オーストラリアでは“ergo”や“de facto”など、しばしばラテン語が含まれます。そして何よりも、法律文書には“heretofore” “here herein” “forthwith”といった昔ながらの英単語が使われています。ケンブリッジ辞典が法律用語を「弁護士や法律文書で使われる、一般人には理解しにくい言葉」と定義しているのには納得できます。

 法律文書の文体スタイルは、あいまいさをなくすことが目的、と言われたりもしますが、私を含む弁護士たちは、多くの状況において単純化が図れると考えています。

 法律用語が特定の特徴を定義するのに役立つ例として「所有権」があります。所有物に対する法的権利を全て持っていなくても、所有者になることはできます。例えば、Aはパディントンにある土地の所有者であり、Bはその土地を通る通行権、Cはその他の地役権、Eはその土地の終身所有権を保有し、Dはその土地にあるパン屋を賃貸している、など。

 法的権利の定義における言語の重要性を示すもう1つの例は、訴訟事件の和解条件の記録です。例えば、交通事故で負傷した私のクライアントの1人が、CTP保険会社から35万豪ドルの賠償金を受けることに同意したとします。事故後(から和解解決前まで)、クライアントは保険会社から治療費、理学療法費、薬代として3万豪ドルを負担してもらっていました。その場合、和解条件において、賠償金(35万豪ドル)が保険会社から既に支払われた費用を含むものなのか、含まないものなのかを明確にすることが非常に重要です。この2つのシナリオを比較すると、3万豪ドルの差が生じます(35万豪ドルの賠償金が、既に支払われた3万豪ドルを含むことを意図していた場合、私のクライアントは、和解時に32万豪ドルを受け取るだけ)。

 法的権利の定義における言葉の力を示す例をもう1つ挙げましょう。2人の友人がブロード・ビーチの1室を一緒に購入したとします。一方が亡くなったら、その人の持ち分はもう一方に渡るのでしょうか? 答えは、2人の共同所有の法的地位によって決まり、主に2つの選択肢があります。

 アメリカの弁護士にとって“Deposition”(証人の証言)や“Discovery”(証拠を集める活動)といった表現は典型的ですが(アメリカの法廷テレビ番組、例えば“Boston Legal”や“The Good Wife”)、オーストラリアでは法的手続きが異なるため、そのような表現は現在では使われていません。法律制度が違えば、法律用語も異なります。

 最後に、言葉が情緒的な力を持つことを述べた、有名なアメリカの弁護士(で大統領になった)エイブラハム・リンカーンの言葉を引用します。「如才なさとは、他人のことを、その人自身が思っている通りに表現してあげる能力のことである」。

このコラムの著者

ミッチェル・クラーク

MBA法律事務所共同経営者。QUT法学部1989年卒。豪州弁護士として30年の経験を持つ。QLD州法律協会認定の賠償請求関連法スペシャリスト。豪州法に関する日本企業のリーガル・アドバイザーも務める。高等裁判所での勝訴経験があるなど、多くの日本人案件をサポート

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