毎年数週間にわたりシドニーで開催される世界最大規模のLGBTQIA+の祭典マルディグラの時期は、街中がレインボー・カラーであふれるが、特にマルディグラ・パレードの熱気はすごい。パレード当日の3月2日は、例年通りオックスフォード・ストリート周辺が多くの人びとで埋め尽くされた。そんな煌びやかなパレードに2022年から出場している「ジェンダー・フリー・ジャパニーズ」という日本人グループの代表を務めるアヤカさんとコウキさんに話を伺った。
（文・写真＝櫻木恵理）
人生が変わったマルディグラ・パレード
日本の同性婚合法化を目標に掲げているジェンダー・フリー・ジャパニーズは、パレードに出場することによってより多くの人たちにLGBTQIA+のことを知ってもらい、身近に感じて欲しい、そして日本で暮らす人にも良い影響を与えられればという思いから2021年に結成された。最初は4人からのスタートだったが、それが20人、40人と増え、今年は80人がパレードに参加するまでに成長した。「全く知識がないゼロの状態から手探りで始めたので1年目はとても大変だったが、それを乗り越えて来たからこそ今がある」とアヤカさんは振り返る。
結成のきっかけは、アヤカさんとコウキさんの2人で初めて行ったシドニーのマルディグラ・パレードだった。特にコウキさんは、LGBTQIA+の人たちが主役になり堂々と胸を張って輝いている姿を見て、人生観がガラッと変わったと言う。
女性の性別で生まれたコウキさんは、男性として生きることを選択。「日本ではそのことを隠していて、その方が幸せに暮らせると思っていたし、周りの人に打ち明けるつもりもなかった。そのせいかマルディグラのイベントには抵抗があった」と話す。もしアヤカさんに誘われなかったら行くことはなかっただろう。
だが、そのパレードを見てからコウキさんの意識は大きく変わった。尊敬する人の後押しもあり、自分がトランスジェンダーであることを周りにカミングアウトした次の日、いつも見ていたシドニーの風景がパッと明るく感じるようになり、気持ちも驚くほど軽くなったことに気付く。そして心をオープンにしたことで新しい仲間が増え、以前は劣等感を持っていた性的マイノリティに対し、うらやましいと言われることも多くなった。アヤカさんも、自信にあふれ堂々と生きるようになったコウキさんを誇らしく思っている、と語る。
そういった経験が、ジェンダー・フリー・ジャパニーズの立ち上げを決意させた。
性別や国籍など関係なく個性を認め合える社会に
ジェンダー・フリー・ジャパニーズは、主にマルディグラ・パレードに出場することを目的として活動している。出場者も募集しており、参加資格はLGBTQIA+当事者でもそうでなくても関係なく、性別や国籍などは問わない。LGBTQIA+について何も知らない、ただお祭り気分を味わいたい人も大歓迎だという。参加することで周りと違う自分に悩んでいる人の居場所づくりになることはもちろん、これまで関わりがなかった人も、さまざまな個性を持つ人の存在を身近に感じ、理解し尊重し合えるきっかけになれば良い。そのためには、まず知ってもらうことが大切だと考えている。
興味があれば、ジェンダー・フリー・ジャパニーズのウェブサイトも見て欲しい。
当日は小雨がパラつく天候に多少ハラハラさせられたが、パレードは順調に行われた。ジェンダー・フリー・ジャパニーズの出番は午後8時半過ぎ。日本の国旗を翻し、カラフルな法被を着た団体が太鼓の音と共にオックスフォード・ストリートを歩く。そして日本からもう1団体、昨年に引き続き今年も福岡からNPO法人「カラフルチェンジラボ」も出場した。
シドニーに住んでいればゲイやレスビアンのカップルは珍しくなく、トランスジェンダーと聞いても驚くことはない。だが、シドニーで最初のマルディグラが行われた1978年は同性愛が違法とされていた時代で、デモ行進が行われていた。オーストラリアで同性婚が認められたのは記憶に新しい2017年であり、この国も少しずつ時間を掛けて変化して来たのだ。
日本とは比べ物にならないほどの規模を誇るシドニーのマルディグラを見て、初めて自分は息苦しかったんだと気付く人も多いと言う。パレードの様子はテレビなどでも中継されるが、映像では現地の空気感までは伝わらないので、一度は実際に訪れてみると良いかもしれない。
