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オーストラリアの田舎で暮らせば⑲秋の家庭菜園と保存食作り

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 オーストラリアの暦では3~5月は秋。日は短くなっていくが過ごしやすい気温の秋は、家庭菜園とキッチンの行き来が増える季節でもある。夏野菜の名残りの収穫を使った保存食作り、ハーブや種の採取、冬に向けた苗作りなど、家庭菜園をめぐる作業に勤しむ毎日だ。(文・写真:七井マリ)

夏野菜の「終わり」の決め方

秋になって気温が下がっても実ったままの未成熟のミニトマト

 色鮮やかに紅葉する木が少ないサウス・コースト地方の田舎町でも、4月初旬にいわゆる夏時間が終わると日没は5時台になり、秋も半ばといったところ。ガーデン・ベッドで栽培していたオクラやトマトなどの夏野菜の終わりを見届ける一方で、次のシーズンの野菜作りに目を向ける。成長を終えた株は根こそぎ抜いて、土に新たな堆肥(たいひ)を加える下準備が必要だ。あるいは、根を残して地上に出ている部分を切り、根に集まる微生物を生かして土の活性状態をキープする方法もあると聞き、現在のところ両方を試している。

 多年草のネギやチャイブなどは1年を通して青々としているが、多くの野菜は一年草で旬と終わりがある。最終的に花が咲いたり葉が固くなったりする葉菜類は終わりが分かりやすい一方、枝やツルに実がなる果菜類はいつまでも小さな実が付いていて、それを無下にして良いものかと迷ってしまう。種から数カ月にわたって世話をしてきた植物なので多少の愛着もある。

 昨年は初秋の気温になってもミニトマトの茎に緑色の実がたくさん付いたままで、週に数個ずつ収穫できる状態が長く続いた。全てが色付くか枯れるまで待つべきか、熟すまでに時間が掛かりすぎるなら抜いてしまおうか、タイミングに悩んでいるうちに秋が深まってきた。熟していないとはいえ大量の実が付いたままの枝を切って堆肥にしてしまうのは忍びなく、何か活用方法はないかと調べて見つけたのが未成熟の青トマトを使った保存食のレシピ。有毒らしい固く小さい実を除いて使えそうな実を心置きなく摘み取り、夏野菜の幕引きとすることができた。

捨ててしまうはずの食材を保存食に

摘み取った未成熟のトマト。赤や黄色に色付きかけている物もあった

 摘み取ったボウル1杯分の青トマトを何日か追熟させ、洗って切ってみたら思ったより柔らかかったので、色付く直前だったようだ。見つけた青トマトのピクルスのレシピは発酵の手間がない酢漬けタイプで、これなら失敗しにくそうだと思い試してみた。

 主な材料は青トマト、塩、酢、砂糖、小麦粉、スパイス。使ったスパイスは、カレー・パウダー、ターメリック、マスタード・パウダー、クローブなどだ。「green tomato pickles」で検索したレシピの多くがカレー風のスパイスを使っていたので、青トマトの酸っぱさや青臭さを緩和するために効果的なのだろう。調理して消毒したビンに詰め、1~2週間寝かせたら食べ頃になるが、発酵食品ではないため保存期間は冷蔵庫で1カ月という短期的な保存食だ。

 酸味とスパイスがマッチした黄褐色のピクルスは想像以上に食べやすく、ポーチド・エッグなどの卵料理に添えると程良いアクセントになった。肉料理やサンドイッチにも合いそうで、捨ててしまうはずだった青トマトが実はおいしく食べられると分かったこと自体が収穫だった。

乾燥ハーブ作りと自家採種

ビンに詰めたパセリとバジル、摘みたてのミントとシソ

 バジルやパセリ、ミント、シソなどのハーブは春から夏の間、食卓のメインにはならずともサラダや薬味として活躍した。ほんの少量だけ欲しい時に庭から摘んで新鮮なまま使えるのがありがたく、晩夏を過ぎてただ枯れていってしまうのがもったいない。

 使い切れないハーブは葉が元気なうちに少しずつ摘み取って洗い、しっかり水気を払ったら細かく刻んで乾燥させる。ザルに入れて低湿な日に天日干しにするのが理想的だが、清潔な紙や布巾の上に広げて冷蔵庫に入れおいても1週間ほどで乾燥ハーブの完成だ。水分が完全に抜けたら葉の繊維まで簡単に崩れるので、湿気を避けてガラス容器で保存しておけばしばらくはスーパーマーケットの香辛料売り場に行く必要がない。乾燥ミントに熱湯を注げば自家製ミント・ティーになるし、乾燥させたシソで和風ドレッシングやふりかけを作るとさり気なく夏が香るようでおいしい。

 葉と同時に種も集め、紙に包んで保存しておく。ハーブの種は自然にこぼれて冬の後に芽を出すことが多いが、悪天候で上手く成長しないこともある。念のため自家採種しておくと、園芸店で種を買わずとも春のまき直しができて収穫の確実性が上がるのだ。必要量だけ採種したら、残りは小鳥がついばむだろう。

生き物を育てるような野菜作り

ケールやレタスなどの種まきから5日目、小さな芽が育っている

 家庭菜園で育てる冬野菜の苗作りのシーズンは晩夏から秋にかけて。3月にはケールや白菜、レタスなど、4月にはホウレンソウやスナップエンドウの種をまいた。スナップエンドウは春野菜だが、収穫までに5カ月も掛かるので秋まきだ。

 苗を買った方が簡単だと分かってはいる。それでもまいた1粒の種から折れそうな細い根が出て、薄く小さな葉が土の中から首をもたげるように芽吹く姿には、思わず目を細めたくなるような愛おしさがある。植物の始まりに触れ、その生命力を思い知ることは何度体験しても飽きそうにない。

 違う季節のことだが家庭菜園の世話をしていたら、差し始めた朝の光に反応してズッキーニの芽が背伸びをするようにゆっくりと動き出し、思わず目を奪われた。低速度撮影のドキュメンタリー映像でいつか見た植物のように、閉じて寝ていた双葉が文字通り起き上がり、ものの15分のうちに空を仰ぐように開いて止まった。生きている、と実感するには十分すぎる出来事だった。

 種まきに限らず家庭菜園の作業は生き物を育てることに似ていると思う。どれも自分の都合やタイミングではなく、植物の性向という相手の事情を第一に考慮して進める必要があるからだ。成長度合いに応じたケアに気を配る必要があることも、判断の連続であることも、世話をするものとされるものが相互作用の関係にあるあたりも同じだろう。

 気温と相談しながら種をまき、苗の生育状況に一喜一憂し、定植や収穫の判断に逡巡することを、「生き物同士」としてそのひと時を味わいながら続けていけたらいい。栽培の成果としての作物だけでなく、その過程で経験し感じることそのものが豊かな実りだ。昨年の秋は種まきや定植が遅れてしまったが、果たして今年はうまくいくだろうか。

著者

七井マリ
フリーランスライター、エッセイスト。2013年よりオーストラリア在住





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