オーストラリアを代表する動物と言えばカンガルーとコアラ、そしてタスマニアと言えばタスマニア・デビルが有名ですが、実はそれ以上に貴重かつ珍妙な動物がいることをご存知でしょうか? 世界で最も奇妙な動物と言われる、カモノハシです。
カモのくちばしにカワウソの体、水かきの付いた手足、水生に適したその体は18世紀末には初めてヨーロッパで紹介された時には作り物とまで言われました。
また、カモノハシはその珍奇な見た目以上に、哺乳類なのに卵を産むという特異な繁殖形態を採ることで知られています。それは現在、ハリモグラの仲間3種とカモノハシにしかない特徴で、この4種をまとめで単孔目と呼びます。ただし、単孔目とは卵を産むという意味ではなく、鳥類と同じようにふん、尿、生殖が総排出腔という1つの穴を通して行われるという意味になります。
更にカモノハシは約6000種いる哺乳類の内、数種しか確認されていない毒まで持っています。オスだけが持つこの毒は、致死性ではないものの、摂取してしまうと激烈な痛みを伴う上、痛み止めが効かない、解毒薬が作れないなど非常に厄介なもの。間違っても素手でカモノハシに触ってはいけません。
見た目、繁殖形態、毒とどれをとっても特殊と言える特徴を3つも兼ね備えるカモノハシは、まさに世界一珍妙な動物と言えるでしょう。
そんなカモノハシはオーストラリア東部、QLD北部からタスマニア島全域に及ぶ広い地域に生息していますが、開発や洪水による生息域の分断化や破壊、水質汚染によるえさの減少などが原因でオーストラリア本土では個体数の減少が危惧されており、2020年には国内において絶滅危惧種として扱うべきとされました。
しかし、タスマニアではいまだに多くのカモノハシが生息していて、自然の河川はもちろん、意外にもダムや貯水池、市内の用水路のような場所でも見掛けることができます。これは護岸工事などの開発が少なく、また水質が良いため、えさとなる水生生物が豊富にいるからなのでしょう。タスマニアを訪れたなら、地元の人に聞いてみてください。きっと秘密の観察スポットを教えてくれるでしょう。
このコラムの著者
稲田 正人
タスマニアのツアー・ガイド/コーディネーター。タスマニア大学で動物学・環境学を学んだ後、のんびりゆったりした生活感に魅せられ、そのままタスマニアに在住。現在は現地旅行会社AJPR(Web: www.ajpr.com.au)に勤務する傍ら、多過ぎる趣味に追われる日々を満喫中