第26回:信念を持って生きるということ
20代も後半になったころ、私は一体自分が何のために働いているのか分からなくなっていた。
目的もはっきりしないまま、毎日仕事をしていると、だんだん辛くなって遂には行き詰ってしまった。母は、そんな私をとても心配して「いい人がいたら、結婚してもっとゆっくり暮らしなさい」と口癖のように言っていた。だけど、当時の私は、結婚どころか、人を信じることもできなくて、人生を分かち合いたいと思える人などその存在すら考えられなかった。
何事も自分、自分、自分だった。25歳を超えたら「キャリアか結婚か」と世間は言う時代であったが、私にとっては、どうして2つしか選択がないのかも疑問だった。
30代でシドニーで働き始めたころ、毎日が必死だった。2歳の娘の世話をしながらのフルタイムの仕事は、時間との戦いだった。だけど、その時仕事を辛いと思ったことは一度もなかった。それよりも、社会人になって以来初めて仕事に「やりがい」というものを感じた。それは、目的がはっきりしていたから。生計を支えるため、家族を養うため。これだけ目的がはっきりしていると、毎日感謝しながら仕事に励むことができた。仕事ができて本当にうれしかった。
苦しみに苦しむのは辛い。行き詰った時、人間だから落ち込んで当たり前。だけど、物事はとらえ方次第。そのまま落ち込んだままでいるのか、それを糧にして先に進むのかで、人生の展開が変わってくる。
「そこに壁があるのは、それなりの理由があるからだ」とある人は言った。
人生で起きることから逃げず、それを受け入れる勇気を持てと。受け入れるというのは、言われるがままにするという意味ではなく、その時点で一番良いと思われる対処法を選んで歩み続けることである。たとえその時、自分の考え通りにならなくても、多くのことはまだ時期が来ていないということで、いずれは目的地にたどり着くということを悟ることである。
落ち込んでどうしても辛い時、「ジャンプをするには、一度しゃがんで勢いをつけないと跳べないのだから、今、そのためにしゃがんで待っているのだ」と自分に言ってみよう。
信念を持って、その時その時をしっかり生きていれば、その「時期」は必ずやってくるはず。
ミッチェル三枝子
高校時代に交換留学生として来豪。関西経済連合会、マッキンゼー・アンド・カンパニー日本支社に勤務。1992年よりシドニーに移住。KDDIオーストラリア及びJTBオーストラリアで社長秘書として15年間従事。2010年からオーストラリア連邦政府金融庁(APRA)で役員秘書として勤務し、現在に至る