少し前にオーストラリアのことを「オース(AUS)」と略す在豪日本人がいることに触れたが、生活に密着している土地や地域の名前は、日常会話でも頻繁に登場し、独特の変化を遂げやすい単語の1つだ。
ビーチやホテル、カジノがあり、更に大型ショッピング・センターのパシフィック・フェアもあるゴールドコーストの「ブロードビーチ」という地域は、ゴールドコースト周辺の住民にはたいへんなじみのある場所である。
この「ブロードビーチ」は、地元の英語のスラングでも特に省略形がなく、英語ではBroadbeachとそのまま呼ばれている。英語の場合は2音節(シラブル)で、音としてはそれほど長い単語ではないからかもしれない。ところが、日本語でこの言葉を発音してみると「ブロードビーチ」は7拍(モーラ)となる。7拍ともなると、ゴールドコーストに住む日本人たちの間で、自然と短縮語が生まれていっても不思議ではない。
あまり多くの在豪日本人に使われているわけではないが、一部の在住者にはこの「ブロードビーチ」は「ブロビ」と呼ばれている。これは1つの単語を「ブロード+ビーチ」と2つに分け、更にそれぞれの最初の音をとって「ブロビ」となった短縮語だ。似たような例には、日本でもアドビ社の「イラストレーター(lllustrator)」というソフトウエアの名前を2つに分けて「イラスト+レーター」 とし、最初の音をとって「イラレ」と略すケースなどがある。
日本人が短縮語を作る際には、「パーソナル・コンピュータ」が「パソコン」となるように、各言葉の最初の2拍の音をとって4拍の短縮語を作るパターンが多い。ところが、最近の若者の間では「パワー・ポイント」が「パワポ」となるような、「2拍+1拍」の3拍の短縮語が増えているという研究もあり、「ブロビ」はまさにこのパターンに当てはまる。
在豪日本人は、日本人が培ってきた現代日本語のルールやパターンを踏襲しながら、日本から遠く離れた豪州の地で、これまでの日本にはない新たな言葉を生み出しているのである。
ランス陽子
フォトグラファー/ライター、博士(美術)。現在、グリフィス大学の大学院でオーストラリアの日本人コミュニティーにおける日本語変種を研究中。ゴールドコーストでの調査を手始めに、今後はオーストラリア各地での調査を予定している。在豪日本人が使用している面白い言葉についての情報を募集中。情報やメッセージはFBコメント欄かFBメッセージまで。「オーストラリア弁を探せ!プロジェクト」
(Web:www.facebook.com/JapaneseVariationInAUS)