「出稼ぎワーホリ」という言葉がメディアで先走りし、あまり準備をせずオーストラリアで大金を稼ごうとする若者に何人も出会いました。何も間違ってはいません。稼ぎたければ、稼いで良いと思います。しかし、ファームの季節労働は不安定で、クビにされたりもするので、安定してずっと働けなかったりします。ずっと同じ仕事をしたり、暑かったり寒かったりして、想像していた仕事と違うかもしれません。もっと簡単に稼げると思ってオーストラリアに来てしまった人もいるのではないかと思います。ワーホリでファーム・ジョブを経験し、現在はファームで、雇う立場の私の経験をお伝えしたいと思います。
実際にあったワーホリの人とのトラブル
なるべく仲良く楽しく働きたいものですが、仕事となればきちんと働いてもらわなければなりません。ファームでの仕事は、オフィスワークのように、月~金の9~5時ではありません。時に朝早かったり、遅くなったり、長時間だったり、もしくは、急に雨で終わったり。週7日労働もあります。「私は週5で働きたいです」と言えば、シーズン終わりや人材を切りたい際は最優先でクビになるかもしれません。「何でもやるし、頑張ります」という人がファームに限らず優先されると思います。
ある日本人のワーホリの女性を雇ったことがあります。私は自分で人事もやっているので、直接、話をします。その時に、きつい仕事であることに加え、暑くて週6日勤務、アコモデーションはファーム・ハウスで、近くには畑しかないし決してホテルのような部屋ではなく、基本的な生活ができる程度だと伝えます。「それでも、働けますか?」と正直に聞きます。条件に嘘をついて働いてもらっても、お互いに続かないし、新人に3日間私の時間を使って教えても、すぐやめてもらっては時間が無駄になります。それなら3日間、私が作業をした方がビジネスとしても良いわけです。ですから、正直に話します。
それを承知でファームのお手伝いをしてもらっていたわけですが、どうやら週6で働くのはきつかったみたいです。私が「大丈夫?」と何度か聞いた際、「大丈夫です」と返事をもらっていました。私はオーストラリアに18年住んでいるので、半分オージーみたいな考えをしていることがあります。「大丈夫」という言葉を裏読みせず、察することはしませんでした。そしたら、その女性は、大丈夫ではないことを察して欲しかったそうで「働かされた」と言ったのです。
私が、日本から彼女を引っ張り出して、週6で働けと言ったわけではありません。私も日本人ですから、察するという文化も分かります。しかし、私は彼女の母親ではないし、先生でもない。オーストラリアで自分の発した「YES/NO」は、かなりの責任が伴うのです。私は、1人で何十人をまとめなければならない時もあるし、私にとってその仕事は一部でしかありません。他の仕事が山のようにある中で、1人ひとりにカウンセリングはできません。「郷に入ったら、郷に従え」。日本人が海外で生きるということは、自分の意見をしっかりと相手に伝えるということが難しいと思います。私も日本人なのでよく分かります。
ファームの仕事だけでなく、オーストラリアで生きていると、意見をしっかりと言わないと損をすることもあるし、誰にも相手にされないこともあります。誰かが察してくれる文化ではありません。決して受け身ではなく、「私はこう思っている」「私はこうしたい」と自ら発して下さい。
私がこの件で、皆さんに伝えたいことは、意見を言うことも大切ですが、彼女は自分で選んでオーストラリアに来て、ファームで働いたんです。自分で選択して働いているのです。私が働かせているわけではありません。これからの人生で、日常の選択や大きな決断を何度もしていく中で、誰かのせいにしている暇はありません。人生は一度きりです。会社のせいで出世できないとか、「夫が私を幸せにしてくれない」「社会のせい」など、何でも誰かのせいにできるものです。しかし、自分の人生は自分で切り開いて歩んで欲しいと思います。せっかくオーストラリアに来て、稼ぐということも必要ですが、それ以上に、たくさんの経験が待っています。嫌なら辞めて違う仕事を見つけるのも1つ。ぜひ、自分の選択に責任を持って、自分で人生を切り開いて下さい。
毎日少しずつでも、目の前のことをただ頑張るだけで、数年後、数十年後には全く違う大きな結果になっていると思います。ただのファームの仕事であったとしても、ぜひ、目の前の仕事を頑張ってみて下さい。見えてくるものがあると思います。
Profile
松﨑絢子
葡萄ファームズ及びBudou Exportの経営者。オーストラリアVIC州で、生食用ぶどうを生産し、日本を中心とするアジアに輸出している。日本では大手スーパーマーケットで販売中。共同通信グループNNAオーストラリア発行の農業専門誌「ウェルス」で、「南半球でブドウを作る VIC州農園ダイアリー」も連載中。一児の母。
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