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帰国生徒が日本で学ぶ価値とは?─対談:国際基督教大学高等学校 X 同志社国際中学校·高等学校

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【特集】グローバル人材を育成する教育とは

 感受性が豊かな小中学生の時期に海外で生活することで、語学力や国際感覚は人格形成や将来のキャリアに大きなメリットとなるだろう。反面、「日本の勉強についていけない。日本の文化になじめない」などギャップに悩む帰国生徒も少なくない。帰国生徒を受け入れる、国際基督教大学高等学校(ICU高校)の松坂文先生と、同志社国際中学校・高等学校の北川浩司先生にアドバイスを伺った。

──日本人の家族が企業の駐在などで海外生活をする場合、子どもたちもいずれ帰国して日本で教育を受けることが前提となります。しかし、海外生活が長くなると、日本の文化や習慣になじめなくなってしまったり、かといって完全に現地に同化しているわけでもなく「自分が誰か」といったアイデンティティーも失われたり、といった課題が出てきます。帰国生徒を持つ親はどのような心構えが必要でしょうか

北川浩司◎同志社国際中学校·高等学校アドミッションズ・センター副主任、芸術科(美術)

北川:海外でさまざまな文化や習慣を身に付けて帰ってくると、中には日本人としてのアイデンティティーを失ってしまうという子どもたちは確かにいます。入試の相談を受けていると「本当は日本に帰ってきたくなかったのに」という子どもや、そもそも帰国生徒という認識がない子どもなど、さまざまな子どもに出会います。ただ、「大学からまた海外に行きたい」という一時帰国なのか、「これからは日本で暮らしたい」という最終的な帰国なのか。親と子で十分に話し合って欲しいですね。少なくとも、そこをしっかり決めた上で受験しないと、入学してから「やっぱり海外に戻りたい、帰りたい」と学業に集中できないことになりかねません。

松坂:海外生活の長さにもよると思います。2、3年しかいなかった場合、日本に再適応するのは早いでしょう。本人も「日本に帰る」感覚だと思います。ただ、オーストラリアに長く住んでいる親が「子どもに日本の教育を受けさせたい」となると、勉強のペースや日々の時間感覚がオーストラリアと全然違う。そのことは十分、認識して欲しいですね。日本の忙しさは、オーストラリアののんびりした空気感とずいぶん違います。それなりに優秀な生徒が世界中と国内から来ているので、ガツガツやらないと追いつかないです。早い段階で心が折れてしまうと、「やっぱりオーストラリアに戻りたい」となってしまいます。

 オーストラリアから帰国して日本で中学·高校生活を過ごすとなると、強いメンタルを持って「これから嵐が来るんだ」という気持ちで、親が子どもを支えていく必要があります。その嵐を抜けて、日本のペースがつかめれば、あとは心配ないでしょう。海外生活が長ければ長いほど、帰国後は「ハードランディング」(硬着陸)になります。親は子どもを叱らず、「大変だよね」と包容して見守ってあげることが大切です。

──帰国生徒本人としては、帰国後に向けてどのような心構え、準備が必要でしょうか。

 松坂文◎ICU高校教頭、帰国生徒教育センター長、数学科

松坂:オーストラリアで4~5年生活して、すごく貴重な体験をしてきた生徒にしてみれば、日本へ帰ることに不安はあるでしょう。現地での生活や学び、交わりみたいなものにどっぷり浸かって、部分的には「オーストラリア人としての自分」みたいな、しっかりとしたアイデンティティーを築いて欲しいと思います。異文化と衝突することの違和感は当然あるでしょうが、そうした感覚をある程度、自分の中に根付かせてきて欲しいですね。帰国したら、同じようにまた違和感に揺さぶられるでしょう。「何だ、オーストラリアならこうだったのに」みたいに。でも、あまりにも日本に帰ることばかりを前提として後ろ向きにならず、せっかくだから現地にどっぷり浸かって、全力で頑張って欲しい。日本に帰ったら帰ったで、今度は「新しい嵐を通過しようじゃないか」とポジティブに向き合えば良い。帰国を後ろ向きにとらえず、前向きの気持ちで「しばらく嵐の中を通るんだ」と。そんな心構えを持って欲しいです。

北川:海外にいた時の経験を大切にして、視野を広げて欲しいですね。日本帰国だけにポイントを絞ると、視野が狭くなってしまいます。日本とは別の国で、比較的長い間、生活してきた経験は、本人にとって強い武器になるでしょう。それを今後、プラスに使えるような体験をしてきてください。海外での生活を否定するために日本に戻ってくるんじゃないよ、と。オーストラリアの歴史、文化も勉強して欲しいし、海外から日本はどう見えるのかという視点も持って欲しい。それは現地にいる子たちにしかできないことですから。そうした広い視野を自分のものにして、帰って来てくれればと思います。

──オーストラリアは公用語が英語で、治安や生活環境も良いため、帰国せずにオーストラリア国内で進学するという選択肢もあるでしょう。現地で進学するのではなく日本に帰国して学ぶことの意義や魅力について、どのように考えていますか。

松坂:お父さんがオーストラリアに永住して、牧場を経営されている人のお子さんが3月にICU高校を卒業しました。彼女はオーストラリアで生まれ育ち、母語は英語で、最初は小学生レベルの日本語力しかなかったんです。彼女があえて当校を目指したのは、日本人としてのアイデンティティーが発露して、日本で学びたいという素直な気持ちが出てきたからなんです。

 彼女は3 年間の高校生活について「ここを経験しなければ、自分自身をより深く掘り下げて、見つめ直すことはきっとなかった」と言ってくれました。自分は何者かを問い直し、苦しい思い、楽しい思いをしながら、日本で刺激を受けて、自分自身を磨いて、3年間過ごして。彼女はオーストラリアに帰る選択をせず、日本の大学に進学しました。哲学的に自分自身のルーツを問い直し、深く考え直す。海外生活が長ければ長いほどギャップは大きいですから、その違和感を言語化するのはとても良いことだと思います。私もかつて同じ経験をした者としてそう考えています。

北川:日本にずっといる生徒は自分のルーツやアイデンティティーなんて考えないです。海外で長く生活して、経験を積んでいる帰国生徒だからこそ問いかけるのでしょう。海外にいて、両親は日本人で、日本から来たとなると、おのずからアイデンティティーについて自問します。本校には中学と高校がありますが、そのあたりのアイデンティティーの話は、中学入試では無理ですね。中学段階ではあくまで保護者の下で通学して、進学も保護者が半分決めますが、高校受験になると「自分は何者なのか」、「日本は自分にとってどのような国なのだろう」と考えるようになります。

 帰国生徒の中には「日本の部活動をやってみたい」という子もいます。これはアイデンティティーを探る典型例だと思います。自分は何者で、何のために今ここにいて、これからどこに行くのか。そうした発想は帰国生徒特有で、非常に面白い視点だと思います。長く海外にいた生徒には、帰国生徒という感覚がありません。帰国生徒というのは日本の受け入れ側が勝手に決めた用語ですから。子どもがある程度成長してくると、私は子どもが決めるべきだと思うし、そこを親が「君のルーツを求めて日本に帰るんだ」と言って押し付けるのはちょっと違うと思います。我々は「将来のこと、進学のことについては、しっかりとお子さんと話してください」とお伝えしています。

──オーストラリアから日本に帰るという帰国生徒や親御さんに向けてメッセージをお願いします。

北川:海外にいる子どもたちは、今の生活を目一杯楽しんで欲しいです。これに尽きると思います。日本に帰ることを前提に塾に通って受験勉強するだけでなく、現地生活を大事にして欲しいし、できるだけ多くのものを吸収してきて欲しい。それは進学後や社会人になった時に、自分を生かし、自分を守る武器になるでしょう。私たちの学校には、世界中から生徒が集まって来ていますので、リアルな生活経験を語り合って、互いに影響を受けて欲しいと思います。

松坂:オーストラリアは非常に環境が良い所ですから、後ろ髪を引かれるような思いで帰国するのかもしれません。でも日本に帰ることに後ろ向きになって欲しくないです。日本は面白い国ですし、大きな変革期にあります。海外経験を積んだ子どもたちが活躍する場もたくさんあります。今は全力で地域のコミュニティーに入って、自分を研ぎ澄ませてください。そして、自分の言葉でオーストラリアという国について語れるようになって欲しい。両校では共に、世界中に住んでいた生徒と語り合い、視座を広げることができます。広い視座を持った、文化の違いを共有できる子どもたちを迎え入れ、良い教育空間を作りたい。それが2校の共通した認識です。

国際基督教大学高等学校(ICU高校)

国際基督教大学(ICU)が掲げる「世界平和への貢献」の理想を共有する併設校。日本で初めて帰国生徒の受け入れを目的とした高校として1978年設立された。以来、約45年間にわたり、100以上の国·地域に在留した7500人以上の帰国生徒を受け入れてきた実績がある。在校生729人のうち、帰国生徒が501人、国内から進学する一般生が228人(2024年1月時点)。異文化の中で生活してきた生徒たちが共に学び、違った考え方や経験を相互に理解し、固定観念にとらわれずに成長している。教員は異なるバックグラウンドを持つ生徒1人ひとりを尊重し、それぞれの特性を生かし、少人数やレベル別クラスで密度の高い教育を実践。卒業生のおおむね1/3がICUへ、1/3が推薦などで有名私大や海外の大学へ、1/3が一般入試で国公立大や私大にそれぞれ進学している。

International Christian University High School

住所:〒184-8503 東京都小金井市東町1-1-1
Tel: (+81) 422-33-3401
お問い合わせフォームhttps://icu-h.ed.jp/contact/
Web: icu-h.ed.jp


同志社国際中学校·高等学校

明治を代表する教育者、新島襄が18 8 8 年にキリスト教精神に基づいて京都に設立した同志社。幕末に渡米した新島の意志を受け継ぎ、帰国生徒教育にも積極的に取り組み、1980年に同志社国際高校、創立100周年の1988年には同志社国際中学を開校した。全校生徒の約2/3が帰国生徒、約1/3が国内の一般生徒となっており、同じ教室で互いの文化を理解し合いながら、グローバルな感覚を身に付けている。海外からの留学生受け入れや交換留学プログラム、長期·短期の留学制度、国際会議への参加など世界中の同世代との交流も積極的に行っている。中1~高2までの編入学試験を実施していて「急に帰国しなければならなくなった」といった状況にも対応。保護者が海外に在住している生徒や、遠方で登校できない生徒は「学寮」(高校生限定)も利用できる。

Doshisha International Junior/Senior High School

住所:〒610-0321 京都府京田辺市多々羅都谷6 0-1
Tel : (+81) 774-65-8911
Email : center@intnl.doshisha.ac.jp(帰国生徒・留学生入試、帰国生徒教育について)
Web : www.intnl.doshisha.ac.jp





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