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宝石大陸見聞録 その4─オパール大感謝祭を終えて北部準州のあの地へ、愛を叫びに、いや、石掘りに!/トミヲが掘る、宝石大陸オーストラリア 第36回 

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1920年、住民投票で町の名前がCoober Pedy(アボリジニー語で“白人の穴”)に。たった4票差。ひょっとしたらOpal Rangeなんてベタな名前になっていたかもと思うと笑えない 

 オパール大感謝祭とばかりに大量のオパール採掘で大興奮の夜が明けた翌朝は、眠い目をこすりながら町のカフェで朝食からスタート。その後、昨日申し込んだオパール・ツアーに参加すべく案内所に向かうと、既に30人ほどのツアー参加者が出発はまだかまだかと集まっていた。

 このツアーは、1915年当時、最初のオパール発見者であるウィル・ハチソンがどのような経緯でオパールを発見したか、先導するガイドの車に付いて行って追体験する。未舗装路のオパール採掘場を走り抜け、約30分で到着した発見者のキャンプ跡地では、写真や昔の文献のコピーを使いながら一生懸命に説明するガイドを尻目に、大半の参加者の視線は伏し目がち、いや、伏し目がちというよりは地面を“ガン見”していた。

この地を最初に訪れたハチソン氏の足取りを追うツアー。ツアー・ガイドの話の途中で次々と勝手に動き出す参加者たち

 程なく、話も聞かずにうろうろしていた参加者の「あった!」という声があちこちから聞こえてきた。ざっと見回しただけでも地面の至る所にオパールがあるのが分かって、参加者のテンションはだだ上がり。もちろん、トレジャー・ハンターも抜かりはない。ガイドに愛想笑いと相づちを打ちながらも、しっかりとすてきなオパールをゲット! その後も訪れたスポットの全てでオパールを発見できた半日のツアーは、クーバー・ピディにお越しの際にはお薦めだ。

ツアーの途中で見つけた看板。走らない、後ずさりしない、夜は星が奇麗なので特に前方確認を忘れるな……。まぁつまり、興奮し過ぎちゃだめってこと

 その日の午後は、町外れの地下教会を訪ねたり、町の周りをドライブしながら石探ししたりして過ごし、宝石としての価値はないが大きな貝柱のお化けのようなジプサム(石膏)の結晶を見つけることもできた。夜には「昨晩の興奮よ、再び!」とばかりに、紫外線電灯でのオパール探しを続行するなどしながら、アクティビティーてんこ盛りのクーバー・ピディ2日目も大満足のうちに暮れていった。

道端に埋まっていたジプサム(石膏)の結晶。肉厚で貝柱のような結晶は、これ位のサイズだと見栄えもする

 翌朝、昨日と同じカフェで朝食。出発前に、オーナーのジミーさんに感謝とお別れの言葉を伝えると、「僕なんかより、石が本当に好きな君が持っているべき」と、1つの石を渡された。それは、淡い紫色と黄色の粘板岩の欠片で、町の北にあるアボリジニーの土地の立入禁止のエリアで限られた人しか採取できないゼブラ・ロックだった。ありがたくちょうだいしたその石は、トレジャー・ハンターのコレクションの1つとして大事にしたい。

カフェのオーナーがお土産にくれたゼブラ・ロック。NT州北部で採れるゼブラ・ストーンによく似た粘土質の石で、色は白、黄、紫3色の柔らかい色彩

 この日で出発から2週間。あっという間に予定の半分が過ぎ、総走行距離は4000キロに達した。本音を言えば、もっともっとオパールを探したいが、欲を言い出すときりがないので先を急ぐことにした。いよいよ北部準州(NT)へと突入だ。

 北部準州。まずは、誰かが愛を叫んだことでも有名なオーストラリアの象徴エアーズ・ロック(Ayers Rock/ウルル)があるウルル・カタ・ジュタ国立公園へ。20年ぶりのエアーズ・ロックは、名前もウルルと変わって現在は登山禁止。「登れる時に登っておいて良かったなぁ」と当時を思い出しながら、周りを散歩する。そこからマウント・オルガまで足を延ばしてから、今晩泊まるエアーズ・ロックの真横の町ユララ(Yulara)へ向かう。ウルルの横がユララ……なんか面白い。

ようやく、北部準州に到着!

 さすがにオーストラリア有数の観光地ともなると人が多く、施設も充実している。晩御飯の買い出しのついでに散歩をしながら、ギャラリーで芸術観賞。更に無料シアターでアウトバックの星空の勉強を済ませ、かなりベタな観光モードを満喫してからキャンプ場へ向かった。晩御飯を終えてからはたまりにたまった洗濯物と格闘する。大量の洗濯物をランドリーにぶち込んで、待ち時間にクーバー・ピディで見つけたオパールを洗ってみたら、半分以上の原石からオパール特有の緑や紫、黄、青の光があふれ出た。

エアーズ・ロック、今はウルルって呼ばなきゃだめかな。アボリジニの聖地では、愛は叫ばずパワーだけもらってきた

 中には、最も価値がある赤色が輝き出す物や貝殻がオパール化した物なんかもあって、驚きと感動のあまり、恒例の歓喜の雄叫びすら忘れていた。にんまりと笑顔を浮かべながら、色の有無で分けた少量の石と水をサンドイッチ・バッグに入れ、懐中電灯で照らしてオパールの輝きを楽しんでいると、いつの間にか大量の洗濯は終わっていた。ひと仕事終えて車内でごろり。満点の星空と枕元のオパールの輝きに挟まれていると、いつしか安らかな眠りに落ちていた。 

 翌日、アリス・スプリングスを目指して北上。オーストラリア中央部の最大の町、アリス・スプリングスは犯罪率の高さでも知られる。警察署の前に荷台がケージになっているパトカーが15台以上停めてあることからも治安面の悪さが見て取れる。実際の町の様子にも少なからず危険な雰囲気を感じ取ったので、買い物をさっと済ませ、町にはとどまらず、さらに西のウエスト・マクドネル国立公園に急いだ。

アリス・スプリングス。パブの前で入れろともめる人や町中で奇声を上げる人がいたりと、危ない雰囲気を感じた。こういう町は丘の上から眺めるのが一番

 東西に走るマクドネル山脈の西側には、シンプソンズ・ギャップ、オーミストン渓谷、ソンダー山、グレン・ヘレン渓谷など楽しめるスポットは多いが、特に興味深かったのはオーカー・ピット(Ochre Pits)。アボリジニーが伝統的祭事で使用する粘土製の塗料オーカーが採れる聖地だ。

 底が砂地の乾いた川の側面に鮮やかな色の粘土質の鉱物が層状に形成され、それらが塗料として使われる。オーカーの4大産地の1つに数えられる西マクドネルで採れる黄色と淡い紫色のものは、高品質を誇るこの地特有の希少な鉱物。この地のアボリジニーは、他部族との物々交換のためにこの粘土を採取して、オーストラリア各地まで徒歩で運んで交易したというから驚きだ。

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ウエスト・マクドネル山脈のオーカー鉱山。ついてるなぁ、急に降った雨のおかげでオーカーの色が鮮やか。さすがに最高級品質だけのことはあるが持ち帰りはご法度。罰金5,000豪ドルなり

 そんなウエスト・マクドネル山脈を満喫した後は、エミリー・ギャップ、ジェシー・ギャップ、コロボリー・ロック、トレフィナ渓谷などの東マクドネル山脈を散策してからスチュワート・ハイウェイを北上。走行距離が5555.5キロを超えたタイミングで、スチュワート・ハイウェイからプレンティ・ハイウェイに乗り換えて東に進むと現れるのがハーツ山脈。

 アリス・スプリングスから北東200キロほどのこの山脈は、1880年から1960年ごろまで雲母(うんも、英語名:Mica)の採掘が盛んだった。雲母はケイ素、アルミニウム、カリウムの混合物で硬度が2から3と、とても軟らかい薄い層状の鉱物。プラスチックの剛性や耐熱性、ゴムの耐熱性や粘着性を補強したりするのに使われ、細かく粉末状に加工されたものは化粧品にも利用されるなど、使用用途も多岐に渡る。

マクドネル山脈には興味深い地形の場所がたくさんある。道端にはちょっとしたネイチャーズ・ウィンドウがあったりする

 このハーツ山脈は、雲母以外にも、金やガーネット、ジルコンなどの宝石が採れることもあり、多くの石探しの本でも必ず言及され、石探しをする人なら1度は訪れたいと願う有名スポットだ。所有するさまざまなポイントが記入された地図で検討した結果、今回の拠点にはトレジャー・ハンターの好奇心をこれでもかと刺激するジェム・ツリー(宝石の木)という名のキャラバン・パークを選んだ。その拠点に到着した時には、もうとっぷりと日が暮れていたので、すぐにたき火でステーキを焼いて豪快に食らいつく。食後は、たき火を眺めながら明日の更なるすてきな出合いに胸を踊らせていると睡魔が……。

 深い眠りに落ちたトレジャー・ハンターは、夢の中でも石探しをして歓喜の雄叫びを上げたかどうかの答えはそれこそ闇の中……。と、まぁしゃれている暇もない。まだ道半ばの宝石大陸見聞録、読者の皆様、もう少しお付き合いの程を!

(この稿、続く)

(写真はすべて筆者撮影)

このコラムの著者

文・写真 田口富雄

在豪25年。豪州各地を掘り歩く、石、旅をこよなく愛するトレジャー・ハンター。そのアクティブな活動の様子は、宝探し、宝石加工好きは必見の以下のSNSで発信中(https://www.youtube.com/@gdaytomio, https://instagram.com/leisure_hunter_tomio, https://www.tiktok.com/@gdaytomio)。ゴールドコースト宝石細工クラブ前理事長。23年全豪石磨き大会3位(エメラルド&プリンセス・カット部門)





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