執筆=チョーカー和子(NSW州立美術館日本語ボランティア・ガイド)
空間、石、鉄板……。これまで何の関係もなかったものが、突然、互いに呼び合い、1つの作品を作り上げる──
「リ・ウファン:静かなる共鳴」展が州立美術館アジア・ランタン・ギャラリーで始まりました。
1960年代後半から日本で始まった現代美術運動「もの派」の中心人物として知られるリ・ウファンは、アーティストであり、作家、哲学者、詩人でもあります。彼は石、鉄、キャンバスなどシンプルな素材を使い、作品、空間、鑑賞者との出会い、その関係性を考えさせるミニマルな絵画や彫刻で広く知られています。
本展は、2022年から24年に掛けて制作された絵画4点と、60年代後半から制作を始めた、大きな石と鉄板を並べた「Relatum-関係項」シリーズの続編となる彫刻4点を含む全8点の新作で構成されています。また、彼は今回の展覧会に合わせて、ナーラ・ヌラ(南本館)の外の芝生の上に岩の集合体「関係項-石の家族」を制作し設置しました。
リ・ウファンは「大都会は工業化を基盤としており、思考とアイデアに満ちあふれて忙しく、人びとは自然を受け入れず、息苦しい。そんな時、私たちは立ち止まり、自然と人工的な物、創造することと創造しないことの間にある、間、余白を、ゆっくりと考えることで、自由になれると思っている」と語っています。
また、あるインタビューの「作品をどのように鑑賞したら良いのでしょうか?」という質問に対し「あまり見なくても良い、作品の周りをウロウロすれば良い。作品について見ることも読むことも大事だが、それより何よりも現場性、身体性が大事で、緊張感や、具体的には分からないけれど何かをひしひしと感じられれば良い。もし何も感じられない場合は、私の作品は失敗だったことになる」と答えています。リ・ウファンは古典的、近代的なヨーロッパとアジアの哲学の思想を取り入れ、「間」として知られる空のパワーが、物や人びとの間に調和と緊張の両方を生み出すと信じています。
1936年に韓国で生まれたリ・ウファンは、56年、ソウル大学の美術大学で絵画を学び始めますが、わずか2カ月で退学して横浜に移り、61年に日本大学で、哲学の学位を取得しました。現在は日本とフランスを拠点に、世界各地で活躍を続けており、2014年にはベルサイユ宮殿の招待作家に選ばれ、最近では、芸術的卓越性を示す作品を制作したクリエーターを表彰するイサム・ノグチ賞の24年度受賞者として発表されました。国際的に大きな注目を集めるリ・ウファンの世界をご自身で体感してみてください。
なお、毎週金曜日、南本館で行われる日本語ハイライト・ツアーには、同展覧会の案内も入っています。ぜひご参加ください。
「リ・ウファン:静かなる共鳴」展
期間:開催中~2025年9月まで
金額:入場無料
会場:Naala Nura(南本館)地上階 アジア・ランタン・ギャラリー
ハイライト・ツアー
・Naala Badu(北新館)
開始時間:毎週日曜日1PM、集合場所:エントランス・パビリオン
・Naala Nura(南本館)
開始時間:毎週金曜日11AM、集合場所:インフォメーション・デスク付近
両ツアーとも約45分間、無料、予約不要です。 直前に変更などの可能性もありますので、美術館のウェブサイトをご確認の上、ご参加ください。
お知らせ
●2024 年4月、NSW州立美術館の2つの建物に先住民の言葉の新しい名称がつけられました。
「これらは先住民の知識と言語への深い敬意とともに、当美術館の場所の特異性と歴史の重なりを認識するものです」とマイケル・ブランド館長は語る。
Naala Badu(ナーラ・バドゥ 北新館)“seeing waters” 水辺を臨む
Naala Nura(ナーラ・ヌラ 南本館) ”seeing Country” 大地を臨む
Art Gallery of NSW
ニュー・サウス・ウェールズ(NSW)州立美術館。南本館に加え、日本人建築家ユニットSANAAのデザインによる北新館が2022年12月に新築オープンした。常設展は入場無料。
Web: www.artgallery.nsw.gov.au
日本語サイト:www.artgallery.nsw.gov.au/visit/plan-your-visit/information-in-other-languages/japanese