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非情/日豪フットボール新時代 第147回

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試合後、傷心の葛山を慰めたのは2人の愛息だった(筆者撮影)

「もう、グランド・ファイナル(GF)の取材はやめよう」。そんなどこにもぶつけようのない思いを抱きながら試合直後のピッチに立った。

 視線の先には、ブリスベン・フットボール界の鉄人として尊敬を集めるホランドパーク・ホークス(FQPL2・州3部/豪州4部相当)所属の葛山元基(41)の後ろ姿。肩を落とし憔悴(しょうすい)してチームメイトに慰められながらしゃくり上げる姿をファインダーに収めるのはためらわれた。ましてや気軽に話し掛けられる状況でもなかった。そんな筆者の逡巡(しゅんじゅん)の間、律儀な彼は筆者の姿を認めると重い足取りをこちらに向けた。お互い歩み寄って力のない握手を交わした後は、「お疲れさま」と肩をたたくのが精一杯だった。

 先制し、追いつかれ、勝ち越され、最終盤になんとか追い付いたのもつかの間、ロスタイムで突き放された。この日、けがのレギュラーに代わって本職ではないCBで先発した葛山は「(本職の)SBで出たかった、(3失点も)僕が止めていれば……」と声を絞り出す。自ら敗戦の責めを一身に負おうとするその姿には胸が痛んだ。いつも誰よりも頑張っている選手が、そのキャリアの集大成となる大目標にあと1歩届かず、人目をはばからず滂沱(ぼうだ)の涙を流す。フットボールの神様、ちと、頑張っている人に非情過ぎやしないか……。

 長年、ローカルのフットボール・シーンで体を張り続けてきた葛山とは旧知の仲。いったんはシニア・リーグに移るも、あふれ出る向上心を抑え切れずに再び一線で現役復帰して以来、下位リーグから確実にステップアップ。今季からFQPL2(州3部)にプレーの場を求めた。新天地でも昇格を目指すクラブの精神的支柱として、全試合出場を続けながら活躍する彼の動向はしっかり追ってきた。「取材はGFで王者になるタイミングこそがベスト」との思いで、満を持してGFが行われたスタジアムに足を運んだのだが……。

 これまで幾つかのGFで日本人選手が涙を飲む姿を繰り返し見てきたので、「またかよ……」の思いが、試合後に冒頭に書いたような言葉でほとばしった。むろん、勝敗は時の運。絶対王者でも番狂わせに涙を飲むことも多いのが一発勝負のファイナル・シリーズだ。しかし、努力の人・葛山にだけはなんとか歓喜の涙を流して欲しかった。

 ゆっくり心身を労り、今回の悔しさを完全に昇華させてから、不惑のフットボーラーはピッチに置き忘れた“モノ”を獲りに行くべく再始動するに違いない。そのころにまた、葛山元基という類稀なるフットボーラーを必ず取り上げよう。

植松久隆(タカ植松)

植松久隆(タカ植松)

ライター、コラムニスト。タカの呟き「今年もローカル・フットボールの季節が終わった。ということは、Aリーグの開幕がすぐそこに迫っているということでもある。来季も男女Aリーグに、日本代表の主力クラスから現地昇格でトップ・リーグにたどり着いた選手まで多くの日系フットボーラーが活躍するだろう。楽しみだ」





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