オーストラリア弁護士として30年以上の経験を持つMBA法律事務所共同経営者のミッチェル・クラーク氏が、オーストラリアの法律に関するさまざまな話題・情報を分かりやすく解説!
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オーストラリアでは、クリスマスを盛大に祝います。日本でいう元旦のようなものでしょうか。宗教的な重要性(キリスト教で最も重要な日であるイエス・キリストの誕生を祝う)とは別に、2024年12月24日のクリスマス・イブから祝日が続くことで日常生活にも影響があり、ほとんどの職場は25年1月6日までの2週間(も!)休みになります。
わが家では、クリスマスは家族と祝う特別で楽しい時間であり、サンタ・クロースからのプレゼントを含め、大いに盛り上がります。1年間良い子にしていれば、クリスマス・イブにサンタが家にプレゼントを運んで来てくれると子どもたちは信じています(いました)。サンタ論争はどこの家庭でも起こると思いますが……。
信じられないかもしれませんが、イギリスでもアメリカでも、クリスマスのお祝いは常に合法だったわけではありません! 例えば、1600年代半ばにイギリスとスコットランドの両議会は、クリスマスの「ユール(Yule)休暇」を廃止する法律を可決しました。また1659年から1681年にかけて、米マサチューセッツ州でも同様の禁止令が出されました。これは、ピューリタンの入植者たちが、クリスマスの祝宴は神への冒涜(ぼうとく)であると考えたからです。
現在、イギリスではクリスマスは合法です(かつ、奨励されている)。しかし、サンタの格好をして車を運転するのは、運転に支障をきたす可能性があるため違法です!
そして、クリスマスを祝うことは、北朝鮮を含む少なくとも5つの国で禁止されています。 恐らく、それらの国ではサンタは歓迎されないのでしょうね。
さて、もしサンタが実在し、クリスマス・プレゼントを家に届けた後、庭の小道を横切る電気コード(クリスマス・イルミネーションの電源に使われている)につまずいてけがをしたらどうなるのでしょうか。サンタは金銭的補償を求めて訴訟を起こせると思いますか?
オーストラリアの土地の所有者は、その敷地に立ち入る者に対して、安全のために合理的な措置を講じることを保証する法的注意義務を負っています。この法律の基本的な根拠は、敷地内に立ち入る訪問者が、土地の状態によってけがをすることがあってはならないということです。
サンタは、通院・治療費、所得損失、将来見込まれる出費に対する手当てなど、金銭的補償を求めて、土地所有者を訴えることができます。 サンタが賠償金を得るには、けがの原因となった危険を引き起こした過失行為があることを証明しなければなりませんが、それは刑事上の過失ではなく、訪問者の安全に対する合理的な配慮を怠ったというレベルで問題ありません。電気コードを訪問者の通り道に敷いたことは、民法上の過失として裁かれる可能性が高いでしょう。コードをテープで覆ったり、通り道ではなく家の壁沿いにコードを這わせるなどして、家主が適切な予防措置を講じていれば、サンタの負傷を防ぐことができたはずです。加えて、コードにつまずく危険性があることを標識に書いてサンタに警告しなかったことも影響がありそうですね。
また、サンタの到着時に庭の小道が薄暗かった場合、それがけがの可能性を高める一因になります。もし、通り道にガーデン・ライトを設置していれば、サンタは電気コードにつまづくことはなかったでしょう。
オーストラリアの各州には、この種の金銭補償を課すことを規制する法律があります。訪問者が合法的なゲストなのか、それとも不法侵入者なのかという点も考慮される側面の1つです。 もしサンタがその家を訪問する合法的な許可を得ていない不法侵入者であると見なされた場合、法律によってサンタは金銭的補償を受ける権利を失う可能性があります。不法侵入=犯罪と見なされるため、犯罪行為から利益を得るべきではないというのがその根拠です。
更にひねりが加えられているのがオーストラリアの法律で、不法侵入者の存在が家主によって合理的に予見可能であった場合、不法侵入にもかかわらず、その訪問(侵入)者は金銭的補償を請求する権利を有します。
私が若かったころの話ですが、クリスマスといえば、オーストラリア南部の歴史ある町バララットで、親戚一同と共に祝うのが恒例でした。私の叔母が作るおいしいクリスマス・プディングの中には、新年の幸運と富の象徴として小さなコインを入れる習慣がありました。取り分けられたケーキの中にコインを見つけると幸運が訪れるとされ、このすてきな伝統は1300年代初期にイギリスでクリスマス・イブのケーキの中に小さな銀貨を焼き込んだことにさかのぼります(オーストラリアで現在使われている硬貨は異なる金属でできており、食べ物に混ぜるのに適していないため、叔母は、若いころから大切に持っていた古い3ペンス硬貨を使っていました)。
今年のクリスマスもわが家では、クリスマス・ハムの最初のひと切れを誰が受け取るべきか、家族内で激しい論争が繰り広げられることでしょう。正当に考えて、ハムを調理した人が、最初のひと切れを受け取る権利がありますよね?
クリスマス・プディングにコインが入っていても入っていなくても、新年にたくさんの幸せが訪れることをお祈りいたします。メリー・クリスマス!
このコラムの著者
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ミッチェル・クラーク
MBA法律事務所共同経営者。QUT法学部1989年卒。豪州弁護士として33年の経験を持つ。QLD州法律協会認定の賠償請求関連法スペシャリスト。豪州法に関する日本企業のリーガル・アドバイザーも務める。高等裁判所での勝訴経験があるなど、多くの日本人案件をサポート
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