シドニーに舞う日本の美、2024年12月に開催された吟剣詩舞の公演レポート

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 2024年12月13日、「Japan Expo 2024」の関連行事として、東京に拠点を置く錦凰流による「Experience the Way of Samurai【吟剣詩舞 Gin-Ken-Shibu】」の公演がシドニーCBDにあるスコッツ教会(Scots Church)で開催された。会場は日本文化や武士道に興味を持つ人びとでにぎわい、荒井龍凰氏を筆頭に行われたパフォーマンスは観客を魅了。今回は、その鑑賞レポートをお届けする。
(文・写真=櫻木恵理)

 吟剣詩舞は「吟詠吟舞」とも呼ばれ、独特な「吟詠」のリズムで勇ましく日本刀で舞う「剣舞」と、扇子で情緒的な心情を表現する「詩舞」を合わせたものだ。今回の公演は平家物語から始まり、休憩を挟んでトーク・セッション、モダン・スタイルの剣舞の披露と続き、あっという間の2時間だった。

 初めて吟剣詩舞の舞台を見て「なんて格好良く、優雅なのだろう」と思った。日本独特のしなやかな動作は美しく、日本刀の鋭い動きに惚れ惚れとする。会場には日本語が分からない、平家物語を知らないオーストラリアの人たちが多かったと思うが、言葉や文化を超える感動があったのではないだろうか。「祇園精舍の鐘の声、諸行無常の響きあり……」と聞き覚えのあるフレーズと共に物語が始まり、次第に壇ノ浦の戦いへと進んで行く。詩吟の歌詞は日本人でも慣れてないと意味を聞き取るのは大変かもしれないが、1シーンごとに英語で物語の説明が行われたので、事前に内容を把握しつつ鑑賞することができた。

 約1時間の平家物語の舞台が終わると10分の休憩があり、舞台で使用されていたような煌びやかな扇子などを販売するコーナーには人だかりができていた。観客の中には和装をしている白人男性もいて、日本文化の関心の高さがうかがえる。日本茶も振る舞われ、出演者が会場を回って公演を見に来た人たちと交流を深める様子も見られた。

 トーク・セッションでは、吟詠吟舞錦凰流の3代目後継者である荒井龍凰氏が、吟剣詩舞の歴史や自身のこと、そして今後の展望などについて語る。荒井氏は、吟剣詩舞を世界に広めたいという夢を持っていると言う。今回のチーム・メンバーたちは初の海外公演だそうだが、荒井氏は過去にシドニーでパフォーマンスをした経験がある。3歳で初舞台に立ち、18歳で吟詠・剣舞・詩舞師範免許を取得、2013年には東京都吟剣詩舞道総連盟理事就任した荒井氏は、15年にシドニーでパフォーマンスをしたいと希望に燃えていた。だが当時のシドニーには荒井氏のことを知る人はおらず、剣舞の存在すら知られていなかったため、最初は小さなレストランやホテル、倉庫など、パフォーマンスができる場所ならどこへでも出向いたという。そうしていくうちに次第に名前が知られるようになり、最終的にはシドニー大学やシドニー工科大学で講義をする機会を得て、キャンベラにある在オーストラリア日本国大使館主催のイベントでパフォーマンスすることもできた。19年には、シドニー・オペラ・ハウスで公演も行っている。

 また、荒井氏は近い将来シドニーでも剣舞を学べるオンラインの学校を作りたいと考えており、そのメンバーでのパフォーマンスができたらうれしいと語った。日本文化に根ざした武士道の哲学を通して、弱者に対する思いやりや誠実さ、礼儀や他人に対する尊重などを学びながら、心と精神両方を豊かにする機会を提供したいと話している。

11歳という最年少のチーム・メンバーである村田星萌さんも英語でスピーチをした

 トーク・セッションが終わると後半は、伝統とモダンが融合したパフォーマンスが披露された。伝統的な剣舞は女性の演者も男性の着物を着用するが、「鶴」という演目では女性の着物を着て、現代風の音楽に合わせて華やかな扇子が舞う。そして戦場の物語である「奥羽道中」、美しい光景が連想される「厳島」、日本古来の物語「羽衣」など、さまざまな雰囲気やスタイルの舞で観客を魅了した。

 かつて日本に存在した侍はもういないが、武士の精神性は世代から世代に受け継がれ、守っている人たちがいる。この夜、代々と受け継がれてきた日本の伝統芸能に触れ、改めて日本文化の美しさを実感したと同時に、日本から離れてオーストラリアに移住した自分について振り返る機会にもなった。海外に出て自国とは違う文化に触れることで、初めて自分が生まれ育った国のことを深く知るということはよくあるが、日本国外で見る日本文化も悪くない。西洋的な教会の建物の中で日本の伝統が再現される様子は、私の目にとても新鮮に写った。荒井氏によると、またシドニーで吟剣詩舞の公演が行われることがありそうなので、見たことがない人は一度見て欲しいと思う(荒井龍凰ウェブサイト:http://singingsamurai.com)。





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