執筆＝チョーカー和子（NSW州立美術館日本語ボランティアガイド）
「ARTEXPRESS 2025」は、今年で42回目を迎える美術を学ぶ高校生たちの展覧会です。2024年のHSC（High School Certificate／高校卒業証明）試験（ビジュアル･アーツ）の課題制作の総数8858点の中から選ばれた50点の優秀作品が展示されています。
陶芸、ドローイング、絵画、フォト･メディア、版画、テキスタイル、ビデオなど、HSCビジュアル･アーツ･カリキュラムの全ての表現形式の作品が展示され、幅広いアプローチや使用されるメディアは実に多様です。
ARTEXPRESSの作品のテーマは家族、アイデンティティー、文化的遺産、高校生活、移民、階級、環境といった社会的･政治的問題を探求するもので、毎年一貫しています。しかし、彼らの作品制作へのアプローチやユニークな表現が展覧会ごとに個性を際立たせています。
現在、クリエイティブ業界で活躍するアーティストたちは、ARTEXPRESSへの出展が自身の芸術キャリアを志すきっかけとなったと語ります。
NSW州立美術館でオーストラリア美術の学芸員を務めるナタリー･ウイルソンは、HSCで美術か音楽かを選択する際、美術の先生を好んでいたことから美術を選択。そして自身の作品が「ARTEXPRESS 1985」に出品されたことを知り、大学で美術を専攻することを決意。その後、美術史の修士課程を修得しました。彼女に強い影響を与えた美術教師には約10年前に、彼女が現在働くこの州立美術館で、それもARTEXPRESS展でばったり出会い、感動的な再会をしたそうです。
また、現役アーティストのジャスパー･ナイトは、1996年にARTEXPRESSに選ばれた際の興奮を次のように振り返ります。「州立美術館で自分の作品を展示できたこと、そしてそれを家族にも見てもらえたことに驚きました。更に、その年のクリスマス･カードに、ジョン･アキリナ教育大臣が自分の絵を採用してくれたことには本当に感激しました。ARTEXPRESSから11年後の2007年、初めてアーチボルドの最終選考に進み、以降、これまで８回の入選を果たしています」。
この他にも、ベン･キルティ、トム･ポロなど、多数のARTEXPRESS出展者が現在アーティストとして活躍しています。
入場無料の「ARTEXPRESS 2025」は、Naala Nula（ナーラ･ヌラ）南本館で4月27日まで開催中です。日本語案内はありませんが、若いアーティストたちの目を通して世界を垣間見ることができるこの機会に、ぜひ皆さんも足をお運びください。
「ARTEXPRESS 2025」
Web: https://www.artgallery.nsw.gov.au/whats-on/exhibitions/artexpress-2025
リ･ウファン：静かなる共鳴展
会期：開催中～2025年9月
会場：Naala Nura（南本館）アジアン･ランタン･ギャラリー
入場料：無料
アンジェリカ･メシティ：The Rites of When
会期：開催中～25年5月11日
入場：Naala Badu（北新館）地下4階 ネルソン･パッカー･タンク
入場料：無料
常設展の無料日本語ハイライト･ツアー
【Naala Badu（北新館）】
開始時間：毎週日曜日1PM、集合場所：エントランス･パビリオン
【Naala Nura（南本館）】
開始時間：毎週金曜日11AM、集合場所：インフォメーション･デスク付近
両ツアーとも約45分間、無料、予約不要
お知らせ
●2024 年4月、NSW州立美術館の2つの建物に先住民の言葉の新しい名称がつけられました。
「これらは先住民の知識と言語への深い敬意とともに、当美術館の場所の特異性と歴史の重なりを認識するものです」とマイケル･ブランド館長は語る。
Naala Badu（ナーラ･バドゥ 北新館）“seeing waters” 水辺を臨む
Naala Nura（ナーラ･ヌラ 南本館 ”seeing Country” 大地を臨む
Art Gallery of NSW
ニュー･サウス･ウェールズ（NSW）州立美術館。南本館に加え、日本人建築家ユニットSANAAのデザインによる北新館が2022年12月に新築オープンした。常設展は入場無料。
開館時間：10AM～5PM（水のみ10PMまで）。イースター･フライデー（25年4月18日）は休館。
Web: www.artgallery.nsw.gov.au
日本語サイト：www.artgallery.nsw.gov.au/visit/plan-your-visit/information-in-other-languages/japanese
