執筆者=浜田千恵(NSW州立美術館日本語ボランティア・ガイド)

Ansei era 1854 – 1860, Hiroshige Andō/Utagawa, “Meguro drum bridge and Sunset Hill from the series One hundred famous views of Edo” 1857, Art Gallery of New South Wales, purchased 1961, image © Art Gallery of New South Wales
現在、NHKの大河ドラマでは、江戸時代のメディア王と呼ばれた蔦屋重三郎(つたやじゅうざぶろう)を主人公にした「べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜」が放送中です。ご覧になっている人もいらっしゃるのではないでしょうか。その影響で、日本では江戸文化、特に浮世絵への関心が高まっています。
その浮世絵をNSW州立美術館でもご覧頂けます。まずは、南本館に入って右手のグランド・コートには、印象派の巨匠モネ、ゴッホ、セザンヌらの作品が展示されている部屋がありますが、彼らの作品と向かい合うような形で歌川広重の浮世絵など日本の作品がガラス・ケース内に収められています。ちなみに、この展示ケース自体も1つのアート作品です。オーストラリアの現代アーティスト、ブルック・アンドリューが手掛けたもので、美術館における「展示」のあり方に新たな視点を投げ掛けています。

Brook Andrew, Tombs of thought: fire from the installation What’s left behind 2018
burnt plantation pine, spotted gum verneer, acrylic, lights, 200 x 120 x 180 cm, Art Gallery of New South Wales, Purchased with funds donated by Geoff Ainsworth AM and Johanna Featherstone 2018 © Brook Andrew. Courtesy the artist and Tolarno Galleries, Melbourne, Image © Art Gallery of New South Wales
モネやゴッホなどの画家たちは、開国した日本から大量に流入した浮世絵に熱狂したと言われています。それまでの西洋絵画にはなかった大胆な構図や平面的な表現、鮮やかな色彩感覚が、彼らに大きな衝撃を与えたのです。実際に、パリ郊外ジヴェルニーのモネの自宅には、現在も多くの浮世絵が残されています。

Claude Monet, Port-Goulphar, Belle-Île 1887, oil on canvas, 81 x 65 cm stretcher; 98 x 82 x 10 cm frame, Art Gallery of New South Wales, Purchased 1949, Image © Art Gallery of New South Wales
西洋の画家たちに影響を与えた浮世絵ですが、展示されている歌川広重らの作品には、当時西洋から輸入された鮮やかなプルシャンブルーが使用されています。日本古来の自然顔料とは異なる、江戸っ子が「ベロ藍」と呼んだ西洋の青に、江戸の絵師たちもまた大きな影響を受けました。

Tenpo era 1830 – 1844, Ikeda Eisen, “The Kegon Falls, one of the three waterfalls from the series Places of the Nikkō Mountains”, 1843–47, Art Gallery of New South Wales, purchased 1930, image © Art Gallery of New South Wales
更に、美術館奥にあるアジア・ランタン・ギャラリーでは、江戸から明治へと移り変わる激動の時代に制作された浮世絵も展示中です。西洋から入ってきた銅版画や石版画、写真技術に負けじと、職人たちが技術の粋を結集させて制作した月岡芳年のシリーズ作品「月百姿(つきひゃくし)」などが並びます。なお、木版画は光に弱いため、展示内容が変わる場合がありますのでご了承ください。
江戸時代のメディア王・蔦屋重三郎も、浮世絵がこれほど大きな文化の波を生み出すとは想像もしなかったかもしれません。職人たちのべらぼうな技を、ぜひ間近でご堪能ください。
4月18日(金)は「Easter Friday」のため休館
伊藤彦子:『Happy Birthday 2U2』
期間:開催中~8月17日まで
会場:Naala Nura(南本館)地下2階
入場料:無料
香港を拠点に活動する日本人アーティスト伊藤彦子が作る366個のメール・ボックスが展示中。自分の誕生日のボックスを開けると、そこにはカードがあるかもしれません。そのカードを受け取ったら、次にボックスを開ける人へカードを書いてみましょう。人と人とのつながりを感じられるインスタレーションです。
Web: https://www.artgallery.nsw.gov.au/whats-on/exhibitions/hikoko-ito/
特別展 ツァオ・フェイ:『My city is Yours』
期間:開催中~4月13日まで
会場:Naala Badu(北新館)地下2階
入場料:$35ほか(12歳未満は無料)
『ARTEXPRESS 2025』
期間:開催中~4月27日まで
会場:Naala Nura(南本館)地下2階
入場料:無料
リ・ウファン:『静かなる共鳴』
期間:開催中〜9月まで
会場:Naala Nura(南本館)アジア・ランタン・ギャラリー
入場料:無料
アンジェリカ・メシティ:『The Rites of When』
期間:開催中〜5月11日まで
会場:Naala Badu(北新館)地下4階 タンク・ギャラリー
入場料:無料
常設展:無料日本語ハイライト・ツアー
【Naala Nura(南本館)】
毎週金曜日11AM、集合場所:インフォメーション・デスク付近
*4月18日(金)は休館日
【Naala Badu(北新館)】
毎週日曜日1PM、集合場所:エントランス・パビリオン

Art Gallery of NSW
ニュー・サウス・ウェールズ(NSW)州立美術館。南本館に加え、日本人建築家ユニットSANAAのデザインによる北新館が2022年12月に新築オープンした。常設展は入場無料。
開館時間:10AM~5PM(水のみ10PMまで)。イースター・フライデー(25年4月18日)は休館。
Web: www.artgallery.nsw.gov.au
日本語サイト:www.artgallery.nsw.gov.au/visit/plan-your-visit/information-in-other-languages/japanese