主導権握るのはグリーンズとティール
5月3日投票のオーストラリア連邦選挙の結果は、労働党と保守連合の二大政党がともに過半数を握ることができない「ハング・パーラメント」となる可能性が高い。多数決の原則に反して、わずかな少数勢力が意思決定の主導権を握り、不安定な議会運営を強いられそうだ。

改選前の連邦下院(定数151=過半数76)の議席数は、アンソニー・アルバニージー首相の労働党77,ピーター・ダットン代表(自由党党首)の保守連合53,左派「グリーンズ」(緑の党)4,諸派2、無所属13、欠員2。与党はわずか1議席差でかろうじて過半数を維持していた(グラフ参照)。
ニューズポールの世論調査(3月3〜7日実施)によると、選好票配分後の実際の選挙結果に近い「二大政党別支持率」は、労働党が49%、保守連合が51%。世論調査結果を掲載した全国紙「オーストラリアン」の分析によると、支持率が選挙結果にそのまま反映された場合、労働党は下院で7議席を失って過半数を割り込む可能性がある。しかし、保守連合が仮に労働党が失った7議席をすべて獲得したとしても、60議席と過半数には遠く及ばない。
この場合、少数政権を樹立するには、キャスティングボートを握る少数勢力の閣外協力を得ることが不可欠となる。
カギ握る「ティール」とは何か?
上記の通り、仮に労働党が7減の70、保守連合が下院で7増の60の議席を獲得した場合、労働党はグリーンズ(改選前4)と、環境保護派の保守系無所属「ティール」(改選前10)とそれぞれ閣外協力を結べば、合計で過半数の勢力を確保できる可能性がある。
ティールは、おおむね保守的なバックグラウンドを持つものの、脱炭素や再エネ推進など環境保護には積極的な無所属議員のグループだ。青(保守の自由党のテーマカラー)と緑(環境保護のイメージカラー)の中間色を表す英単語「Teal」から名付けられた。
ティールはそれぞれ独立して活動している。しかし、その多くは再エネ実業家ホームズ・ア・コート氏の気候変動ファンド「クライメット200」から資金提供を受けている。利益誘導の側面は拭えないが、22年の前回選挙では二大政党の環境政策が手緩いと不満を持つ中間層の支持を集め、下院で新人6人を含む10人、上院で新人1人の合計11人が当選した。今回の選挙でも求心力を維持できるかが注目される。
一方、保守連合の中でも右寄りのダットン氏が、急進的な左派のグリーンズと組むことはあり得ない。再エネ推進に積極的なティールとの連携も可能性は低い。保守連合のエネルギー政策は、再エネよりも天然ガスや将来の原発新設を含む多角的なエネルギー・ミックスに重点を置いているからだ。
保守連合が確実に政権奪回を実現するには、地すべり的勝利を収めて単独過半数を制する必要がある。あるいは、過半数に届かずとも比較第一党の座を確保した上で、保守系の無所属議員や諸派の協力をどれだけ得られるかが焦点となる。
保守連合は、労働党政権にグリーンズとティールズが協力し、環境政策がより急進化する事態を警戒している。選挙CMでは、ティールズに投票しないよう有権者に盛んに呼びかけている。
15年前の悪夢がよみがえる?
労働党は過去にも少数勢力と閣外協力を結び、少数政権を樹立した経緯がある。2010年8月21日の連邦選挙の結果、ジュリア・ギラード首相(当時)率いる労働党の議席数は72、保守連合も72とまったくの同数となり、1940年以来のハング・パーラメントとなった。
その結果、労働党は10年9月14日になってようやく少数政権を樹立し、3週間以上の政治空白が生まれた。キャスティング・ボートを握った6人の少数勢力のうち、グリーンズ1人、保守系無所属3人の合計4人から閣外協力を得て、かろうじて過半数の勢力を確保した。
しかし、ギラード政権は、障害者支援制度や教育改革、育児休業手当の導入などで実績を残したものの、少数勢力に議会運営の手足を縛られて迷走した。労働党内の内紛にも明け暮れ、13年の次回連邦選挙の直前には、自らが10年の選挙前に首相の座から引きずり下ろしたケビン・ラッド氏(現駐米大使)に逆襲を受けて党首選で敗北。再登板したラッド氏の下で戦った連邦選挙で労働党は17議席を失う大敗を喫し、保守連合に政権交代を許している。
今回の選挙の結果、いずれの勢力が多数派を形成するにしても、単独過半数に届かない限りは多難な航海が待ち受けていそうだ。