石炭火力発電所は次々と閉鎖
5月3日投票のオーストラリア連邦選挙では、主な争点にエネルギー問題が浮上している。電気・ガス料金が高騰して「エネルギー危機」と言われる状況になっているからだ。オーストラリアは世界屈指の資源大国なのに、なぜこんなことになったのか?

「シドニーの地下を掘るだけで数百年分」(鉄鋼関係者)――。こう言われるほどオーストラリア産の石炭は潤沢だ。ところが近年は温室効果ガス排出量が多いことがネックとなった。輸出市場では鉄鋼原料の高品質な「原料炭」は需要が高いものの、国内では脱炭素の流れから発電用の「一般炭」の需要は頭打ちとなっている。
連邦政府の統計によると、2022-23年度の石炭消費量は前年比3.9%減、同年度まで10年間は年平均2.3%減のペースで縮小している。電力の再エネ比率が拡大する一方で、かつては電力供給の大半を占めた石炭火力発電所が次々と閉鎖されている(グラフ1、グラフ2参照)。

ガソリン備蓄は1カ月弱
一方、再エネ比率の上昇と直接関係はないが、液体燃料の安定供給をめぐるエネルギー安全保障上のリスクもある。オーストラリアは2023-24年度に日産16万9,000バレルの原油を生産したが、既存資源の縮小を背景に、減産傾向が続く。連邦産業・科学・資源省の統計によると、原油生産量は29-30年度までに年間平均3.9%のペースで減少していく見通しだ。
その上、ガソリンや軽油といった生活や経済に欠かせない石油製品は、主にアジアからの輸入に依存している。国内の製油所はランニングコストが高いため次々と閉鎖。現存する施設はクイーンズランド州リットン(ブリスベン郊外)とビクトリア州ジーロンの2カ所しかない。
このため、オーストラリアは産油国であるにもかかわらず、主にシンガポールや韓国などで精製された石油製品を輸入しているのだ。意外なことに「資源のない国」と言われる日本からも、多くのガソリンや軽油を輸入している。
それなのに、国内備蓄量はガソリン27日分、灯油21日分、軽油23日分、原油40日分しかない(23-24年度の平均=連邦気候変動・エネルギー・環境・水資源省)。国際エネルギー機関(IEA)は各国政府に90日分以上の備蓄を奨励しているにもかかわらずだ。
有事でホルムズ海峡やマラッカ海峡が封鎖されてタンカーが止まれば、オーストラリアでは最短1カ月程度で石油製品が枯渇する可能性がある。車はガス欠で仕事にも行けず、トラックが動かないのでスーパーやコンビニの棚は空っぽ。そんな悪夢が現実となる日が来るかもしれない。
「②資源大国オーストラリアでエネルギー危機のなぜ? 世界2位のLNG輸出国なのに…」に続く
■ソース
Australian Energy Update 2024(Department of Climate Change, Energy, the Environment and Water)
Measures of liquid fuel stocks(Department of Climate Change, Energy, the Environment and Water)