「狭き道」は実現しつつあるけれど
オーストラリアの3月の失業率は4.1%と小幅に上昇したが、雇用情勢は依然として堅調に推移している。高い物価と金利を背景とした景気減速は峠を越し、「最悪期は脱した」(ジム・チャーマーズ連邦財務相)との見方もある。インフレを抑えつつ景気後退と雇用の悪化を回避する「狭き道」を実現しつつあるようだが、一難去ってまた一難。行く手には、「トランプ関税」という大嵐が待ち構えている。

雇用と物価の動向は、中央銀行の豪準備銀(RBA)が金融政策を決める上で重要な二大要素だ。その上、持ち家率が高く変動金利型住宅ローンが主流のオーストラリアでは、利下げは月々の返済額の負担を減らす減税のような役割を果たす。一般国民は当然、誰もが利下げを期待するし、個人消費を刺激して景気を押し上げる効果も大きい。反面、利下げはインフレを再燃させるリスクがある。
当面はABSが4月30日に発表する1-3月期の消費者物価指数(CPI)統計が注目されるが、RBAは5月19〜20日に開く次の会合で追加利下げを行うことがほぼ確実と見られている。5月の利下げ幅は通常の0.25ポイントと見られているが、0.5ポイントの利下げを予想する声もある。
RBAは2022年5月から23年11月までかつてない速いペースで利上げを行い、政策金利を史上最低の0.10%から4.35%まで引き上げていた。その後、9会合連続で据え置いた後、今年2月、5年3カ月ぶりの利下げに踏み切り、同金利を4.10%に引き下げていた。
今後の利下げのペースについて、コモンウェルス銀とウエストパック銀は、ともに現行4.1%の政策金利が年末までに3.35%まで引き下げられると予測している。通常の0.25ポイントの利下げであれば、年内に3回あることになる。
ただ、トランプ関税の影響が実体経済に現れてくるのはこれからだ。米国がオーストラリア製品に課す税率は一律10%(鉄鋼・アルミニウムは25%)にとどまり、オーストラリアの輸出に占める米国向けの割合が比較的小さいことから、トランプ関税の直接的影響は限定的と見られている。
しかし、報復関税の応酬で米中が本格的な貿易戦争に突入し、国際商品価格が急落した場合、中国向けの資源輸出が多いオーストラリア経済は、間接的に大きな打撃を受け、景気後退に陥るリスクもある。この場合、RBAは関税合戦によるグローバルなインフレ圧力も天秤にかけながら、慎重に利下げのペースを見極める。そんな綱渡りの金融政策を迫られそうだ。
■ソース
Unemployment rate at 4.1% in March(ABS)
Week beginning 21 April 2025, AUSTRALIA & NEW ZEALAND WEEKLY(Westpac Economics)