
筆者の世代は、横浜Fマリノス、その前身の日産FCに日本のプロ・フットボール草創期を彩る名門として特別な感情を持つ人が多い。あの伝説のJリーグ初年度の開幕戦、30年前の旧国立でのヴェルディ川崎―横浜マリノス(共に当時のクラブ名)を幸運なことに、観衆の1人として目撃した身には、Jリーグのいわゆる“オリジナル10”で鹿島アントラーズと共にJ2降格経験のない名門が、最下位で降格危機にあえいでいるのが信じられない。しかし、現実は厳しい。シーズン中に2度も監督の首をすげ替える迷走で降格阻止にもはや待ったなしの状態にある。
6月18日、その名門でパトリック・キスノーボ監督の退任が発表された。4月18日、今季の開幕時の監督であるスティーブ・ホランド元監督の解任後、暫定指揮を経て、5月5日に監督として正式に就任したばかり。暫定指揮の期間を加えても、わずか2カ月の短期政権となった。
そのキスノーボの退任は、マリノスが18年のアンジ・ポスタコグルー就任以来、長らく紡いできた“豪州路線”の終焉(しゅうえん)を意味する。キスノーボの後任の大島秀夫監督も長く歴代のオージー監督の下で研鑽(けんさん)を積んで来ただけに、路線の継続性がなくなったわけではない。それでも、日本人監督の下でコーチング・スタッフが純国産の顔ぶれになった時点で、豪州路線にひと区切りがついたのは間違いない。ポスタコグルーを嚆矢(こうし)に、ケビン・マスカット、ハリー・キューエル、ジョン・ハッチンソンと続き、イングランド人のホーランドを挟んで、5人目のキスノーボまで紡がれたオージー監督の系譜がついに途切れたのは象徴的な出来事だ。
この中で、ハッチンソンはJ2磐田を指揮、自らマリノスを指揮はしてないがアンジの副官を務めたアーサー・パパスがJ1のC大阪を指揮するなど、オージー監督の存在感が日本のフットボール界から完全に払拭されたわけではない。それでも、マリノスに限定すれば一時代の終焉を感じずにはいられない。マリノス豪州路線の最後の砦はDFトーマス・デン。彼が好守で残留に大いに貢献できれば、マリノス・サポーター界隈で豪州路線がそこまでネガティブに総括されることもないと思いたい。
アンジが名門マリノスをリーグの頂に導き、その黄金期を現出させ、アタックキング・フットボールで多くの人びとを魅了した豪州路線が、未体験ゾーンのJ2降格と共に語られるのは忍びない。なんとか、踏みとどまって残留を勝ち取ってもらいたい。
植松久隆(タカ植松)
ライター、コラムニスト。タカの呟き「Aリーグが終わると同時にローカル・リーグの優勝ならびにファイナル出場権争いが一気に佳境に入る。筆者が追うNPLQLDは男女共に大激戦。特に男子は、理論上、10位のチームまでファイナルの可能性が残されており最後まで目が離せない。次回以降、少し詳報できればと思う」