オーストラリアにおけるビジネス売買とデューデリジェンスの重要性/豪州ビザ・法律最新事情

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 オーストラリアでは、中小規模の事業から大規模な企業まで、さまざまなビジネス売買が日常的に行われています。買収や売却は大きなチャンスとなる一方で、適切な調査を怠れば思わぬリスクを抱え込む危険もあります。そこで重要となるのがデューデリジェンス(Due Diligence)です。

デューデリジェンスとは

 デューデリジェンスとは、ビジネス売買に際して対象事業の実態を詳細に検証するプロセスを指します。財務状況、法的契約、税務上の義務、運営上の問題点などを多角的に調査し、買収後に潜在的なリスクを引き継ぐことを防ぐのが目的です。

 オーストラリアでは、弁護士、会計士、ビジネス・ブローカーといった専門家が関与し、買い手の立場から徹底的に調査を行うことが一般的です。

 オーストラリアでデューデリジェンスが重要視される理由の1つは、買収後にビジネスに関連するリスクや責任が基本的に買主に移転するためです。

なぜ責任が買主に転嫁されるのか

 資産売買(Asset Sale)と株式売買(Share Sale)のいずれであっても、契約や事業運営に関するリスクは、売買成立後に原則として買主が引き継ぐことになり、例えば、以下のようなものが買収後に表面化するケースがあります:

・過去に発生していた未払いの税金や社会保障費
・契約条件が不利なリースや仕入契約
・従業員との雇用上のトラブル(過去の残業代請求など)
・コンプライアンス違反や規制違反(環境規制、ライセンス不備など)

デューデリジェンスの主な調査分野

・財務面の確認
・売上や利益が正確に計上されているか
・未払いの税金や隠れた債務がないか
・キャッシュフローの安定性
・法務・契約の確認
・リース契約や取引先契約の有効性と条件
・未解決の訴訟やコンプライアンス違反の有無
・知的財産権の所有状況
・事業運営の実態把握
・顧客基盤や主要取引先の安定性
・従業員契約や労働条件の確認
・業界規制や許認可の遵守状況

具体例から見るデューデリジェンスの必要性

例1:飲食店の買収
 カフェを購入する際、デューデリジェンスで「店舗リース契約が1年後に終了する」ことが判明。契約更新が保証されていなかったため、買収後に営業継続が不可能となるリスクがあったが、調査を通じて条件交渉を行うことでリスクを回避できた。

例2:IT企業の買収
> 中小IT企業の買収において、調査の結果「主要顧客が契約を更新しない予定」であることが明らかに。その顧客は売上の大半を占めており、デューデリジェンスを行わなければ、買収直後に事業価値が大幅に下落していた可能性が生じていた。

例3:製造業の買収
 環境関連の規制調査で「過去の排水処理が基準を満たしていない」ことが判明。事前に確認したことで、買収後に高額な改善費用や罰金を負担する事態を回避できた。

 オーストラリアにおけるビジネス売買では、デューデリジェンスを徹底することが成功の前提条件です。財務・法務・運営のあらゆる角度からリスクを洗い出し、買収後の不測の事態を防ぐことができます。

 売買を検討する際は、必ず専門家と連携し、時間と費用を投じてでも調査を実施することが望まれます。デューデリジェンスを行うことは、単なる形式ではなく、事業の将来性を守るための最も確実な投資なのです。

アドバイザー

清水 英樹

清水 英樹

オーストラリアQLD州弁護士。在豪30年以上。地元大学卒業後、弁護士資格を取得。フェニックス・グループCEOとして傘下にあたる「フェニックス法律事務所」、ビザ移民コンサルティング「Goオーストラリア・ビザ・コンサルタント」、交通事故ならびに労災を専門に扱う「Injury & Accident Lawyers」を経営

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