
毎年恒例の、オーストラリア国立大学(ANU)アジア・太平洋カレッジ日本学科及び在豪日本大使館共催の学生歌舞伎を中心とする「第48回日本の夕べ」が、キャンベラ豪日協会などの協賛のもとに、10月10日〜12日の3日間にわたり同大学構内にある劇場「キャンベラ・REP・シアター」で行われた。
(文責:オーストラリア国立大学アジア・太平洋カレッジ日本学科客員研究員・歌舞伎演出・監督:池田俊一)

今年は、公演期間中、昨年元旦に起こった「能登半島地震」の被災者に対する義捐金をくじ引きによって募り、3日間の公演で集まった寄付金が、キャンベラの「豪日協会」を通じて石川県国際交流協会に寄付された。
前座として、初日はANU学生の千代・ブラウンと山本芙美代によるバイオリンの二重奏(「ジブリ」から2曲)、及び日本からの留学生、萩本鈴美、山下将輝、西岡士、森海人によるギター演奏と日本の歌、そして2日目と3日目は、キャンベラ在住の澄江・デイビースの琴とメリンダ・ヒールのフルートで、琴の名曲「春の海」の二重奏及び4人の留学生のギター演奏と日本の歌で雰囲気を盛り上げてくれた後、歌舞伎の上演に移った。

今年の学生歌舞伎の演目は、「毛谷村」として知られている「彦山権現誓助劔(ひこさんごんげんちかいのすけだち)」という演し物の第五幕第二場及び「大詰」で、「ザ・歌舞伎」にとっては初挑戦の芝居であった。第五幕第二場は「豊前国毛谷村六助住家の場」で、隠遁生活を送っていた六助という主人公が、自身の剣術指南、吉岡一味斎が京極内匠という奸賊に殺害されたことを一味斎の未亡人と娘を通じて知り、師匠の敵討ちを決意する場で、「大詰」では、六助が吉岡家所縁の娘と孫が仇討ちをするのを助太刀するという筋書きの芝居である。

ANU学生歌舞伎の伝統で、主として男子学生が女形を、女子学生が男役を演じることに変わりはないが、ここ数年、その伝統に固執せず、男子学生にも女子学生にも自由に役を選んでもらっており、自分が気に入った役を演じる、という伝統ができつつある。今年も、主役級の役者が長い台詞を淀みなく誦じて、観客の喝采を浴びていた。また、例年通り、日本人留学生や、日本文化に興味と関心のある様々な国からの留学生も多数参加してくれた。
台詞は文語体で書かれた本物の歌舞伎台本通り、全て日本語で演じるので、日本語を理解しない多くの観客のために、以前から取り入れている英語の字幕方式を今年も提供し、好評を得た。

今年は、残念ながら観客席に空席が目立ったが、来場者の熱気が、演じる役者にもしっかり伝わり、芝居が始まる前のあいさつで、舞台監督が「掛け声をよろしく」とお願いしたこともあり、時折「成田屋!」や「音羽屋!」という掛け声がかかって、芝居の雰囲気を盛り上げてくれた。今年も、3日間ともプロンプターが開店休業に近い状態だったという理想的な舞台で、役者も観客も大いに楽しんだ3日間だったと言えよう。