
オーストラリアで夏が近付くと特に気になるのが日焼け止め。紫外線量が世界でも高水準のこの国では、日焼け止めは「化粧品」というより日常生活の必需品です。学校や保育施設での使用も一般的で、外遊びの前後に塗り直す光景は珍しくありません。実際、オーストラリアは皮膚がんの発症率が非常に高い国としても知られ、紫外線対策は健康管理の基本とされています。
そんな中、最近では「市販の日焼け止めのSPF表示が実際と一致していないのでは」という指摘が続き、TGA(Therapeutic Goods Administration)が調査を開始するなど話題になっています。今回は、その背景と、薬剤師の視点から“今、選ぶべき日焼け止め”を分かりやすくまとめます。
そもそもSPFとは

SPF(Sun Protection Factor)は、肌が赤く焼ける原因となるUVBをどれだけ防げるかを示す指標です。試験条件下では、SPF30は約96.7%、SPF50は約98%のUVBを遮断すると報告されています。ただしこの数値は「十分な量を均一に塗った場合」の話で、現実の生活では塗布量不足や汗・摩擦で効果が下がりやすいのが実情です。
ブロード・スペクトラム(broad-spectrum)の重要性
一方で、紫外線にはUVA(肌の奥深くに届き、老化や皮膚がんリスクに関与)もあります。そこで必ず確認したいのが「ブロード・スペクトラム(broad-spectrum)」の表示。これはUVAとUVBの両方を防ぐことを意味し、SPFの数値と同じくらい重要です。SPFだけで選ばず、ブロード・スペクトラム(broad-spectrum)表記の有無が必須と覚えておきましょう。
なぜSPF表示のズレが話題に!?
消費者団体の検証で「表示より低いSPFだった」という例が報告され、当局が品質や試験方法を見直しています。注意したいのは、「有害な成分が入っていた」という問題ではない点。あくまで“期待される防御効果に達していない可能性”が論点で、使ったから健康被害が出るということではありません。
形状と成分の選び方
薬局で選べる日焼け止めの形状は多彩です。
・クリーム/ローション:ムラなく塗りやすく、全身向け
・ジェル:軽い使用感でベタつきにくい
・スプレー:便利だが塗布量不足になりがち。噴射後に手で伸ばすのが必須
・スティック:顔や目周りなど細かい部分向け
成分では、大きくミネラル系とケミカル系に分かれます。
ミネラル系(亜鉛(zinc oxide)・二酸化チタン(titanium dioxide))は紫外線を物理的にはね返す仕組みで、刺激が少なく敏感肌や子ども向けです。
一方、ケミカル系は化粧品などに使用され、紫外線を吸収して熱エネルギーに変えることで防御し、アボベンゾン(avobenzone)、オクトクリレン(octocrylene)、ホモサレート(homosalate)などが代表的な成分です。伸びが良く白浮きしにくいため日常使いに向きますが、肌質によっては刺激を感じる場合もあるため注意が必要です。
また、オーストラリアでは「Kids」「Sensitive」「Baby」と表示された製品は、比較的刺激の少ない処方がされています。ただし“天然”や“オーガニック”表記だけで安全とは限らない点には注意が必要です。
日焼け止めを選ぶ時の実用ポイント
①SPF30以上、可能ならSPF50+、かつブロード・スペクトラム(broad-spectrum)を選ぶ
②耐水性表示(water-resistant)を確認(海、スポーツ時は特に)
③使用量の目安 大人の全身で約35mL(ティー・スプーン7杯分)
④再塗布は2時間ごと、泳いだ後、汗、タオル使用後は必ず塗り直し
⑤開封後の目安は12カ月。変色や分離があれば廃棄
⑥併用が基本。帽子、サングラス、長袖衣類、日陰の利用などと組み合わせる
日焼け止めは単独で万能ではない

日焼け止めは大切な防御手段ですが、単独で“完全防御”にはなりません。帽子、サングラス、長袖、日陰の活用などを組み合わせる「サン・スマート(SunSmart)」対策が、皮膚がん予防の基本として公式にも推奨されています。
最後に
今回のSPF問題は不安を呼びましたが、結論は明確です。使わないより、正しく使う方が圧倒的に安全。SPFの数字だけに頼らず、ブロード・スペクトラム(broad-spectrum)、十分な量、こまめな塗り直し、そして他の対策との併用。この4点を押さえて、オーストラリアの夏を賢く乗り切りましょう。迷った時は、肌質や生活スタイルに合う1本を薬局で相談するのがおすすめです。

Profile
鐵池めぐみ(カナイケメグミ)
薬剤師。シドニー大学薬学部卒業後、オーストラリア薬剤師国家資格を取得。シドニー及び南オーストラリア州の大学病院で、がん治療を中心とした臨床薬学に20年以上従事。現在は、がん治療の研究に携わる傍ら、薬局を拠点に英語と日本語で薬の相談や服薬支援を行っている。
Email: megkanaike@gmail.com