2024年、オーストラリアの家族法は大きな見直しが行われました。さまざまな改正が導入されましたが、その中でも特に重要なのが、ドメスティック・バイオレンス(家庭内暴力、以下DV)を、養育だけでなく財産分与においても明確に考慮するという点です。
これまでDVは、主に「親権・子どもとの面会」の問題として限定的に扱われがちでした。
1. DVの定義は暴力だけではない
通常DVと聞くと身体的暴力を想像しますが、現在の家族法では、DVは単なる身体的暴力に限らず、例えば、以下のような行為もDVに含まれます。
・生活費や銀行口座を一方的に管理する(経済的DV)
・就労や就学を妨げる
・ビザを盾に脅して行動を制限する
・携帯電話やSNSを監視する
・継続的な精神的圧迫や支配(コントロール型DV)
改正後は上記のような行為は全て、財産分与の判断に直接影響する行為として扱われます。
2. DVは貢献度(Contribution)の評価に影響する
財産分与では、裁判所は以下の点を総合的に判断します。
・誰がどれだけ金銭的・非金銭的に貢献したか
・家庭や子育てへの貢献
・将来の生活状況(収入能力、健康状態など)
ここで重要なのが、DVの被害者の貢献度は、より困難な状況下でなされたものとして評価されるようになった点です。
これは判例「Kennon原則」に基づく考え方で、近年の法改正により、裁判所がこの点をより積極的に考慮し、判決を下すようになりました。
例えば:
・DVにより働けなかった、または仕事を辞めざるを得なかった
・精神的・身体的被害により家計管理や育児が著しく困難だった
・常に恐怖や支配の中で家庭を維持していた
このような場合、被害者側に有利な割合で財産分与が調整される可能性が高くなります。
3. 経済的DVは直接お金の問題として評価される
最近の家族法では、経済的DVが特に重要視されています。
例えば:
・勝手に借金を作る
・財産を浪費・隠匿する
・共同財産を一方的に使い込む
・生活費を渡さない
こうした行為が認められると、裁判所は:
・使い込まれた金額は、存在していたものとして計算する
・浪費した側の取り分を減らす
・被害者の将来生活を考慮し、より多くの財産を配分する
といった調整をDV被害者側に有利に行う場合があります。
4. DVは将来の生活維持(Future Needs)にも影響する
DVによって心身に後遺症が残った場合や、キャリアが中断された場合、裁判所は将来の生活能力(収入・健康・再就職の可能性)を重要な点として考慮します。
その結果:
・被害者側により多くの財産やスーパーアニュエーションが配分される
・長期的な経済的不利を補う調整がなされる
5. まとめ
DVの事実は「感情」ではなく「構造」で訴えていきます。裁判官が求めるのは感情的表現や相手に対する人格攻撃ではなく、DVの事実、DVによる影響、そして、過去よりも現在及び将来のリスクです。
日記など実際に起きたことを記録しておくことは非常に大切ですが、それだけでは不十分な場合が多いため、以下のような証拠を残しておくことが重要となります。
・DVO(DVによる保護命令)やAVO(DVによる接近禁止命令)
・医師や心理士からのレポート
・警察やDV支援機関との記録
・第三者による証言
家族法改正後、DVはもはや関係の背景事情ではなく、財産分与の結果を左右する極めて重要な法的要素となりました。DVの事実があった場合、財産分与は折半(50/50)が当然とは限りません。そのため、1人で悩まず、早い段階で専門家に相談することが、安全と正当な財産分与を守る第1歩となります。
アドバイザー

清水 英樹
オーストラリアQLD州弁護士。在豪30年以上。地元大学卒業後、弁護士資格を取得。フェニックス・グループCEOとして傘下にあたる「フェニックス法律事務所」、ビザ移民コンサルティング「Goオーストラリア・ビザ・コンサルタント」、交通事故ならびに労災を専門に扱う「Injury & Accident Lawyers」を経営
