
オーストラリアで生活していると、GPに行った際「処方箋」をもらう場面に出合うことは少なくありません。日本とは制度や仕組みが異なるため、戸惑う人も多いのではないでしょうか。今回は、オーストラリアでの処方箋の基本的なしくみから、PBS、リピート処方、セーフティネットまで、知っておきたいポイントを分かりやすく解説します。
PBSとは
PBS(Pharmaceutical Benefits Scheme)は、オーストラリア政府が医薬品の価格を補助する制度です。対象となる薬は国によって管理され、患者の自己負担額が一定に抑えられています。一般患者の場合も上限額が設定されていますが、後述するコンセッション・カードを持っている場合は、更に低い負担額で薬を受け取ることができます。
スケジューリングとは
オーストラリアでは、薬は「スケジュール」と呼ばれる分類で管理されています。
・Schedule2:薬剤師の管理下で販売される薬(Pharmacy Medicine)
・Schedule3:薬剤師との相談が必要な薬(Pharmacist Only Medicine)
・Schedule4:処方箋が必要な薬(Prescription Only Medicine)
・Schedule8:厳重管理が必要な医薬品(Controlled Drug)
この分類によって、購入できる場所や方法、安全管理の仕組みが異なります。
処方箋の種類

医師(専門医、歯科医師、眼科医なども含む)が発行し、薬局で調剤してもらう一般的な処方箋です。
リピート処方
一定回数まで再処方可能な仕組みで、毎回診察を受けずに同じ薬を受け取れます。リピート回数は処方箋に記載されています。
デジタル処方箋
紙ではなく、SMSやメールで処方情報が送られる仕組みです。薬局ではスマートフォンの画面を提示するだけで調剤が可能です。近年はこのデジタル処方箋が主流になりつつあり、GPや薬局の多くが対応しています。
紙の処方箋と比べて、紛失しにくい、薬局に事前送信でき待ち時間を短縮できる、リピート処方の管理がしやすいといったメリットがあります。一方で、スマートフォンの操作に不安がある場合は、紙の処方箋を選ぶこともできます。
処方箋をもらう流れ
①GP(一般開業医)や専門医を受診
②電子または紙の処方箋を受け取る
③薬局に提出
④薬を受け取り、服用説明を受ける
疑問点があれば、遠慮なく薬剤師に相談しましょう。
コンセッション処方とは
高齢者や年金受給者、特定の条件に該当する方は、コンセッション・カード(Concession Card)を使うことで自己負担額が軽減されます。支払い額は一般患者よりかなり低く設定されています。
セーフティネット制度
PBSには、年間の薬代負担が高額になった場合に患者の支払いを軽減する「セーフティネット制度」があります。1月1日から12月31日までの1年間に支払ったPBS対象薬の自己負担額が、政府が定める上限額を超えると、その年の残り期間は薬代が大幅に減額、もしくは無料になります。
上限額に達した場合、その場で自動的に適用されるわけではなく、薬局で登録手続きを行う必要があります。普段利用している薬局が決まっている場合は、1つの薬局に記録をまとめることで管理がスムーズになります。複数の薬局を利用している場合でも、レシートや記録を持参すれば合算することが可能です。
また、家族でセーフティネットにまとめて登録する「ファミリー登録」も可能です。同一世帯に住む家族が一緒に登録することで、薬代の合計額が家族単位で計算され、より早く上限に達することができます。特に、小さなお子さんのいる家庭や、複数の処方薬を使用している高齢者がいる世帯では、負担軽減の効果が大きくなります。
上限額に達すると、薬局から「セーフティネットカード」が発行されます。このカードを提示することで、その年の残り期間は自己負担額が軽減された状態で薬を受け取ることができます。なお、翌年1月になると制度はリセットされるため、年が明けたら再度登録が必要になります。
制度の詳細や最新の金額は年ごとに見直されるため、薬局や「Services Australia」での確認がおすすめです。セーフティネットの適用期間は毎年1月1日から始まるため、年始のこのタイミングに早めに準備しておくと安心です。
制度の対象者についての注意点
ここまで紹介してきたPBSやコンセッション制度、セーフティネットは、原則として永住権保持者またはオーストラリア市民を対象とした制度です。留学生ビザ、ワーキング・ホリデー・ビザなど、一時滞在ビザをお持ちの人は、内容が異なる、または適用されない場合があります。
ご自身のビザの種類によって薬の負担額や制度の利用条件は異なるため、該当するかどうかは必ず事前に確認してください。薬局、Services Australia、または医療機関で相談することで、正確な情報を得ることができます。
薬局を上手に活用しよう
オーストラリアの薬局は「薬を受け取る場所」だけではありません。服用方法、副作用、飲み合わせの確認など、薬剤師は身近な医療相談窓口です。小さな疑問でも、ぜひ声を掛けてください。
制度を理解することで、無駄な出費を抑え、安心して治療を受けることができます。新しい年の始まりに、処方箋のしくみを見直しておくのもおすすめです。

Profile
鐵池めぐみ(カナイケメグミ)
薬剤師。シドニー大学薬学部卒業後、オーストラリア薬剤師国家資格を取得。シドニー及び南オーストラリア州の大学病院で、がん治療を中心とした臨床薬学に20年以上従事。現在は、がん治療の研究に携わる傍ら、薬局を拠点に英語と日本語で薬の相談や服薬支援を行っている。
Email: megkanaike@gmail.com