離婚や別居後の財産分与というと、「長期間掛かる」「費用が高額」「手続きが複雑」というイメージを持つ人が少なくありません。しかし、全てのケースがそのような重い手続きを必要とするわけではありません。
実際には、
・主な財産は自宅不動産のみ
・住宅ローンと少額の貯蓄
・年金(Superannuation)が少しある程度
という比較的シンプルな財産構成のケースが多く存在します。こうした事情を踏まえて導入されたのが、「Priority Property Pool(PPP)制度」です。
Priority Property Pool(PPP)とは?
Priority Property Pool(PPP)とは、「Federal Circuit and Family Court of Australia(オーストラリア連邦巡回家庭裁判所)」が設けた比較的小規模で複雑でない財産分与事件を迅速・簡易に解決するための特別な手続きルートです。
原則として、以下のようなケースが対象となります。
・純資産(Superannuationを除く)が約55万豪ドル以下
・会社・信託・SMSF(自己管理型年金)などの複雑な財産所有の仕組みがない
・紛争の中心が「自宅不動産」「住宅ローン」「預貯金・車・年金」に限られている
なぜPPP制度が導入されたのか?
従来の財産分与手続きは、提出書類が多く手続きが長期化する傾向にあり、弁護士費用が財産総額に見合わないという問題を抱えていました。そのため、「争っている財産より、弁護士費用の方が高くなってしまう」という事態を防ぎ、財産規模に見合った合理的な解決を目指して導入された制度と言えます。
どのようなケースがPPPに適しているか?
以下のようなケースは、PPPに適していると言えます。
・財産の大半が「元夫婦の自宅」
・一方が家に住み続け、住宅ローンを支払っている
・特別な投資・会社・海外信託などがない
・相手方が非協力的、または連絡が取れない
・子どもに関する問題は既に解決している、または争点が限定的
裁判所には裁量がありますが、日常的な財産分与案件の多くがPPPの枠内に収まります。
PPP手続の流れ(概要)
①簡略化された財産開示:通常の詳細な財産報告書の代わりに、「PPP Financial Summary(簡易財産一覧)」を提出します。これにより、書類作成の負担、そして初期費用が大きく軽減されます。
②Registrar(書記官)による積極的管理:裁判所の書記官が積極的に関与し、財産内容の確認、開示不足の是正、紛争点の整理を行います。そのため、放置されがちな案件が前に進みやすいのがPPPの大きな特徴です。
③ケース評価カンファレンス:早い段階で「Case Assessment Conference」が行われ、争点を明確化し、追加開示の必要性を判断、その上で和解の可能性を検討します。多くのPPPケースは、この段階または直後に解決します。
④調停・短期審理 解決しない場合でも、調停(Conciliation)、簡易・短期間の審理へと進み、長期裁判になるケースは稀で、通常6〜9カ月以内に終結することが多いのがPPPです。
PPPでも可能な裁判所命令
「簡易手続き=権限が弱い」というわけではありません。PPPでも裁判所は以下の命令を出すことができます。
・不動産の売却命令
・財産の名義移転
・財産分与割合の決定(Family Law Act s79 / s90SM)
・年金分割命令
・相手方が行方不明・非協力の場合に、裁判所書記官が代わりに署名する命令(※この点は、特に実務上重要です)
よくある実例
別居後、妻が自宅に住み続け住宅ローンを支払っているが、夫と連絡が取れず、売却も名義変更もできない。
→PPP申立てにより、「不動産売却命令」と「夫に代わり裁判所が署名する権限」を取得し、問題を前に進めることが可能です。
まとめ
Priority Property Pool(PPP)制度は、「小さな事件を大きな裁判にしない」ための現代的な制度です。 最適なルートを見極め、費用と時間を最小限に抑えて実生活に即した解決ができるよう、早い段階で専門家にご相談
アドバイザー

清水 英樹
オーストラリアQLD州弁護士。在豪30年以上。地元大学卒業後、弁護士資格を取得。フェニックス・グループCEOとして傘下にあたる「フェニックス法律事務所」、ビザ移民コンサルティング「Goオーストラリア・ビザ・コンサルタント」、交通事故ならびに労災を専門に扱う「Injury & Accident Lawyers」を経営
