
薬には「食前」「食後」「空腹時」など、服用のタイミングに関する指示が添えられていることがあります。日常的に目にする表現ですが、「どのくらい前後すれば良いのか」「少し食べてしまった場合はどうなるのか」など、判断に迷う場面も少なくありません。こうした服用タイミングには、薬の吸収や作用に関わる理由があります。今回と次回は、薬の効き方に影響する「相互作用(drug interaction)」について2回に分けて整理します。今回は薬と食べ物(drug–food interaction)、次回は薬と薬(drug–drug interaction)をテーマに、生活の中で役立つ視点から解説します。
食前・食後・空腹時が指定される理由
まず、処方ラベルでよく見掛ける言葉の一般的な目安を確認しておきましょう。オーストラリアの処方ラベルでは、次のような英語表記が一般的です。
• Take with or soon after food(食事と一緒、または食後すぐ)
• Take immediately before food(食事の直前)
• Take at least half an hour before food(食事の30分以上前)
• Take on an empty stomach at least half an hour before or two hours after food(空腹時に服用 食前30分以上または食後2時間以上)
実際には、前者の2つは「食べ物と一緒に服用する」目的、後者の2つは「空腹時に服用する」目的という大きく2つの考え方に分けられます。いずれも薬の吸収や副作用を考慮してタイミングが決められています。
特に「空腹時」と指定される場合は、薬が十分に吸収される前に食べ物が胃に入ると、吸収が遅れたり効果が弱まったりする可能性があるためです。一般的に、食事の30分以上前に服用するのは薬が先に吸収され始める時間を確保するためだと言われています。また、食後は消化に2時間程度掛かるため、食後に服用する場合は2時間以上空けることで胃の中に食べ物が少ない状態を作ることができます。目安としては、「空腹時=食事の30分前、または食後2時間以上」と覚えておくと分かりやすいでしょう。
食べ物によって薬の効き方が変わる理由
食事をすると、胃や腸の中の環境は変化します。例えば、
• 胃から腸へ内容物が移動する速度が遅くなる
• 胃や腸の酸性度(pH)が変化する
• 脂肪分によって胆汁の分泌が増える
こうした変化によって、薬がどれくらい体に吸収されるか(吸収率・生体利用率)が変わることがあります。薬によっては「食べ物と一緒の方が効きやすい」物もあれば、「食べ物があると効きにくくなる」物もあるため、服用タイミングが指定されています。
種類生活で知っておきたい薬と食べ物の注意点
牛乳・乳製品と抗菌薬

牛乳やヨーグルトに含まれるカルシウムは、一部の抗菌薬(シプロフロキサシン/ciprofloxacinなど)と結合し、薬の吸収を妨げることがあります。カルシウムや鉄を含むサプリメントでも同様の影響が出ることがあります。この場合、薬の効きが弱くなり、治療が十分に進まない可能性があります。比較的よく処方される薬でも見られるため、普段の食事と重なりやすい点として知っておくと安心です。
目安:薬は食事の1時間前、または2時間後に服用し、乳製品とは時間をずらします。
グレープフルーツと一部の薬
グレープフルーツや一部の柑橘類には、体内で薬を分解する酵素の働きを抑える成分が含まれています(一般的なオレンジ、みかん、レモンは該当しません)。その結果、薬の血中濃度が想定以上に上がり、副作用が出やすくなることがあります。
影響を受けやすい薬には、
• 一部のコレステロール治療薬(スタチン系)
• 血圧の薬(カルシウム拮抗薬)
• 一部の睡眠薬・抗不安薬
などがあります。
ポイント:時間をずらしても影響が続く場合があるため、服用期間中は避けるのが安全です。
緑黄色野菜とワルファリン

ワルファリンは血液を固まりにくくする薬ですが、ビタミンKを多く含む野菜(ほうれん草、ブロッコリーなど)を急に多く摂ると、薬の効果が弱まることがあります。大切なのは「食べないこと」ではなく、摂取量を急に変えないことです。
アルコールと薬の関係
アルコールは、睡眠薬や抗不安薬、抗ヒスタミン薬などの眠気を強める作用があります。一緒に摂ることで、ふらつきや転倒、判断力の低下につながることがあります。
また、抗生物質の中にはアルコールと一緒に摂取することで、吐き気、動悸、顔のほてり、頭痛などの体調不良を起こす可能性があるものもあります。「少しくらいなら大丈夫」と自己判断してしまうケースもありますが、薬の種類によっては体への負担が大きくなることがあります。理由が分かりにくくても、服用時にアルコールを控えるよう説明を受けた場合は、その期間だけでも指示を守ることが安全です。
食べ物と一緒に飲むことで副作用を減らす薬
逆に、薬によっては食後に服用することで胃への刺激を減らし、副作用を抑える目的があります。特に痛み止めなどは、空腹時に服用すると胃の不快感や胃痛が出やすくなることがあります。「食後指定」は、吸収だけでなく体への負担を減らす意味を持つ場合もあります。
食べ物と一緒に飲んでしまった場合の対応
うっかり食べ物と一緒に飲んでしまった場合でも、自己判断で服用を中止したり、次回分を倍量にしたりするのは避けてください。気になる場合は、薬局の薬剤師や掛かりつけ医に相談するのが安心です。
薬剤師に確認しておくと安心なポイント
薬を受け取る際、次のような点を確認しておくと安心です。
• 食事とのタイミングはどのくらい厳密に守る必要があるか
• 避けた方が良い食べ物や飲み物はあるか
• 生活リズムに合わせた飲み方の工夫
次回予告
今回は、薬と食べ物の相互作用について整理しました。次回は、薬と薬の相互作用(drug–drug interaction)をテーマに、市販薬やサプリメントも含めて解説する予定です。普段何気なく飲んでいる薬でも、組み合わせによって効果が変わることがあります。次回もぜひ参考にしてみてください。

Profile
鐵池めぐみ(カナイケメグミ)
薬剤師。シドニー大学薬学部卒業後、オーストラリア薬剤師国家資格を取得。シドニー及び南オーストラリア州の大学病院で、がん治療を中心とした臨床薬学に20年以上従事。現在は、がん治療の研究に携わる傍ら、薬局を拠点に英語と日本語で薬の相談や服薬支援を行っている。
Email: megkanaike@gmail.com