オーストラリア「16歳未満SNS規制」をめぐる法的論点―なぜ“子ども自身”が政府を訴えるのか―/豪州ビザ・法律最新事情

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 日本でも報じられた通り、オーストラリアでは16歳未満の子どもによるソーシャル・メディア利用を制限する新たな規制が導入されました。

 政府は一貫して「子どもの保護」を掲げていますが、その一方で、規制の当事者である子ども自身が政府を提訴する動きや、ソーシャル・メディア事業者による法的異議が表面化し、国内外で大きな議論を呼んでいます。

 本コラムでは、

・なぜ子ども側が政府を訴えようとしているのか
・その主張にはどのような法的意味があるのか
・外国籍の子どもや留学生にはどのような影響が及ぶのか

 これらをオーストラリア法の視点から整理します。

1. 規制の概要と政府の基本的立場

 今回導入された制度は、16歳未満の子どもによるSNS利用を事実上制限する枠組みです。ただし重要なのは、この規制が

・子ども本人を処罰するものではない
・親に直接的な刑事責任を課すものでもない

 という点です。
 あくまでソーシャル・メディアのプラットフォーム事業者に対し、年齢確認やアクセス制御の義務を課す規制として設計されています。

 制度運用の中核を担うのは「eSafety Commissioner」であり、政府はこの規制を「子どもの最善の利益(best interests of the child)」に基づく正当な国家介入であると位置付けています。

2. なぜ子どもやSNS事業者は政府を訴えるのか

 規制開始後、注目を集めているのが、子ども本人や支援団体、更には一部SNS事業者が、政府の規制に対して法的異議を申し立てている点です。
 その主張は感情的反発ではなく、主に次のような法的論点に基づいています。

(1)年齢のみを基準とする一律規制の問題

 この規制は、個別事情を考慮せず「年齢」だけで線を引く仕組みです。しかし現実には、

・教育目的でSNSを利用している子ども
・障害・疾病・地理的孤立によりオンライン交流が不可欠な子ども
・社会問題や公共的議論に積極的に参加している若年層

 など、多様な状況があります。
 こうしたケースを一律に排除することは、過度に広範(overbroad)であり、比例原則を欠くのではないか、という点が争点となり得ます。

(2)表現の自由・情報アクセスへの影響

 オーストラリア憲法には明文の人権章典はありませんが、判例上、政治的・社会的コミュニケーションの自由は重要な憲法的価値として認められています。

 現代においてSNSは、単なる娯楽ではなく、

・意見表明
・情報収集
・社会参加

 のための公共的インフラとなっています。
 そのため、国家による包括的なアクセス制限が、実質的に表現の自由を制約しているのではないかという点が、法的に検討される可能性があります。

(3)年齢確認に伴うプライバシーの問題

 規制を実効化するためには、SNS事業者による年齢確認が不可欠です。
 しかしその手段として、

・身分証の提出
・顔認証や生体情報の利用
・AIによる年齢推定

 などが用いられる場合、未成年者の高度にセンシティブな個人情報を扱うことになります。そのため、「子どもを守るために、より深刻なプライバシー侵害を許容してよいのか」という点は、裁判においても厳しく問われると考えられます。

3. 外国籍の子ども・留学生への影響

 この規制は、国籍を問わず、オーストラリア国内にいる子ども全員に適用されます。そのため、外国籍の家庭や留学生には、特有の影響が生じ得ます。

(1)留学生にとっての実務的影響

 留学生にとってSNSは、

・母国の家族との連絡手段
・学習や課外活動の情報共有
・精神的サポートの維持

 といった、生活基盤そのものになっています。
 そのためSNS利用の制限は、孤立感や不安を助長し、結果として学習環境に間接的な悪影響を与える可能性が指摘されています。

(2)間接差別の可能性

 外国籍の子どもは、英語が第2言語であることから、オフラインでの人間関係構築が相対的に難しく、同国出身コミュニティーへの依存度が高くなりがちです。
 このような背景を考慮しない一律規制は、結果として外国籍の子どもにより重い不利益を与える「間接差別」と評価される余地もあります。

4. 今後、裁判で問われること

 仮にこれらの主張が本格的な訴訟として進展した場合、裁判所は主に次の点を検討すると考えられます。

・規制目的は正当で、憲法上許容されるか
・手段は合理的かつ必要最小限か
・子どもの権利と国家の保護義務は均衡しているか
・外国籍の子ども・留学生への影響は十分に考慮されているか  この問題は、単なるSNS政策にとどまらず、デジタル時代における「子どもの法的主体性」や国家介入の限界を問う重要な試金石となりつつあり

アドバイザー

清水 英樹

清水 英樹

オーストラリアQLD州弁護士。在豪30年以上。地元大学卒業後、弁護士資格を取得。フェニックス・グループCEOとして傘下にあたる「フェニックス法律事務所」、ビザ移民コンサルティング「Goオーストラリア・ビザ・コンサルタント」、交通事故ならびに労災を専門に扱う「Injury & Accident Lawyers」を経営

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