日豪プレス・インターンシップ・プログラム取材記事②

日本の航空会社ANA(全日本空輸株式会社)のシドニー支店を訪れ、支店長の松崎真紀さんにインタビューを行った。日豪を結ぶ航空会社としての役割やシドニー支店ならではの取り組み、そして海外から見た日本の魅力について伺った。日本で暮らしていると当たり前に感じてしまう価値や文化も、海外という視点を通すことで新たな輪郭が見えてくる。今回は、日豪ビジネス環境の違いも交えながら、現地の最前線で活躍する支店長の言葉から「客観的に見る日本」を探った。
(文=池宮城秀磨、田島楓、佐々木隆之介)
ANAシドニー支店の魅力─日豪をつなぐ“橋”として

全日空輸株式会社として2人目、そして初の子連れの女性支店長。2026年4月付で執行役員に就任。北京で中国統括室長として新たな挑戦を続ける
まず、日豪をつなぐエアラインとしての仕事の魅力について伺った。
松崎さんは、「日豪を物理的につないでいること」が大きなやりがいだと語る。コロナ禍で多くの航空会社が運航を停止する中、ANAは運航を継続し、両国を結ぶ橋としての役割を果たしてきた。
また、シドニーでの働きやすさについも触れた。
「シドニーは日本に引けを取らないほど安全性が高く、DEI(多様性・公平性・包括性)も進んでいます。女性の社会進出やLGBTQに対するバリアは日本より低いと感じます」
松崎さんは、オーストラリアで“初の子連れ支店長”という立場で赴任したが、働く上で壁を感じることはなかったという。
更に、オーストラリアの人びとの寛容さについても印象を語ってくれた。
「多少遅れただけでは全然怒らないですし、そういう意味でも恵まれてると思います」
多様な文化や価値観を受け入れる土壌があることも、オーストラリア社会の特長だという。こうした背景が、日本語学習者の多さや、日本への関心の高さにもにつながっていのかもしれない。
社内文化については、ANAでは社員同士を”さん付け”で呼ぶ文化があり、シドニー支店では外国人スタッフ同士がファーストネームで呼び合い、本音で意見を交わす風通しの良い環境が築かれていると話してくれた。
また、日本とのビジネス環境の違いについても言及。オーストラリアでは原則として就業時間以外の連絡は禁止されており、土日祝日の給料は大幅に増額されるなど、労働法は非常に厳格だという。
「労働法に関してはすごく気を付けています。こちらのルールは非常に厳しく、日本より恵まれているのではと思うこともたくさんあります」
こうした環境の違いも、海外拠点で働く醍醐味の1つと言えるだろう。
ANAシドニー支店の取り組み─日豪をつなぐ“橋”として

訪日観光客の集客の方法や取り組みについても話を伺った。ANAでは、日本行国際線航空券と同時に購入すると、日本の国内線区間二区間を無料で利用できる「フリー・ドメスティック」を展開している。多くの訪日観光客が東京・大阪・名古屋といった主要都市に集中する中、この取り組みは地方都市への誘客やオーバーツーリズム対策にもつながっている。
「皆さん『日本が大好き』って言ってくれるんです。そういう人たちにもっとリピーターになってもらう。そのためには、行く場所がたくさんあることを知ってもらうこと。それがフリードメスティックなんです」
日本各地の多様な魅力を体験してもらうことで、訪日旅行を“何度でも楽しめるもの”へと広げている。
世界での認知度向上への挑戦
日本では大企業として広く認知されているANAだが、世界的な知名度はまだ十分ではないという。そのため、SNSでの情報発信に加え、国籍や文化を問わず幅広い層にアプローチするため、現地イベントにも積極的に参加している。
「郊外のフリーマーケットのようなイベントでブースを出して宣伝することも行いました。すごく暑い日だったので、ANAのうちわを配ったんです。そこで『こういう航空会社があって、日本で国内線が無料になるキャンペーンもやっているんですよ』と紹介しました。『こんな航空会社知らなかった』という声もあって、QRコードから登録してもらいました」
国籍にとらわれず、多様な層に向けた地道な認知度向上活動が、シドニー支店の重要なミッションとなっている。
ANAは、SKYTRAXにおいて13年連続で最高評価を獲得している。そのホスピタリティーの一例として、日本らしさを体現する細やかな取り組みがある。七夕の時期にはスタッフが浴衣を着用し、乗客に短冊に願い事を書いてもらい、それを神社に奉納するという。こうした日本文化を取り入れた演出や、スタッフがお客様の期待を超えるおもてなしで感動を生むサプライズを「ANAマジック」と称し、さまざまな場面で行っている。海外拠点にいながら、日本らしさを大切にし、世界に発信しているのだ。
「もっと日本の人にも気づい欲しい」ANAシドニー支店長が語る、日本の本当の魅力とは

ANAでは、さまざまな訪日ツアーやキャンペーンを通じて、まだ広く知られていない日本各地の魅力を発信している。そこでインタビューの最後に、シドニー支店長である松崎さんに、「海外から見て感じる日本の魅力とは何か」を尋ねた。
松崎さんが挙げたのは、「深い歴史・文化・伝統の国である」という視点だった。日本に住んでいた時には気づかなかったが、海外に出て初めて見えてきたものがあるという。それは、各地域に根付く小さな文化や伝統が今も大切に継承されていること、そして社会全体が特定の思想に依らず秩序立った行動を自然に取れることだ。
「⽇本の学校では掃除が当たり前で、⼦どもたちがやりますよね。こちらでは掃除は仕事として大人がやるもの。それは日本では当たり前だけど、オーストラリアでは当たり前じゃない。すごい国だと思いますよ、⽇本って。」
日常の中に溶け込んでいる習慣や価値観は、日本にいると意識しにくい。しかし、それこそが海外から見たときに際立つ“日本らしさ”なのだという。
その魅力はオーストラリアの人びとが日本に訪れる理由にも関係している。
松崎さんは「ジャパンクオリティ」にも言及する。日本の航空会社であること自体が、既に1つのブランド価値になっているという。日本が持つ「信頼性」と「高いホスピタリティー」のイメージは利用者に「きっと良い体験ができるのではないか」という期待を抱かせる。その期待に応えることができればリピーターにつながる。
「『⽇本⼈』って、それがプラスに働くんです。確実に。マイナスではなくて。それが、他の国との⼤きな違いかな、と私は思っています」
海外だからこそ、日本人であること、日本企業であることが強みになる。その強みをどう活かすかが、現地での挑戦でもある。
インタビューの締めくくりに、松崎さんはこう語った。
「だからもっと、⽇本と⽇豪関係がぐっと近づくといいなってすごく思っています。そうなったらうれしいですよね」
航空会社の仕事は、人と人、国と国を物理的につなぐこと。しかし、その先にあるのは文化や価値観への理解、そして相互の尊重だ。海外というフィルターを通して見た日本。その姿は、私たちが思っている以上に誇るべき魅力に満ちているのかもしれない。
取材を終えての感想

松崎さんのお話から普段私たちが内側から見ている当たり前の日本が、外から見た時に当たり前ではないということに改めて気づき、そこが日本の魅力でもあることが分かった。また、まだ世界に知られていない日本の魅力、ANAの魅力があることを認識できたので、今後自分がインフルエンサーとなり世界に向けて発信していきたいと思った。今後のキャリアや自分の視野を広げる1つのきっかけにもなった。
(池宮城秀磨)
現在、個人的に就活などで⾃分のパーソナリティーのことを考える機会がすごく増えている。その根底には、⽇本の存在が⼤きいと考えている。今回のインタビューを通して、日本という国を他国との比較や、海外からの客観的な視点から捉えることができた。ANAのシドニー支店で働く松崎さんの話を踏まえ、日本人としてグローバル社会において自分はどのようなことができるのか、また、どのようなことをしていきたいのかを改めて考えていきたい。
(田島楓)
自分の中でANAという企業は、名前を出せば、「ああ。あそこね」とすぐに分かるような大企業という認識で、それが、オーストラリアに来た途端「どこそれ」みたいに、国を移動するだけでこれほど認知度に差があることに驚いた。また、松崎さんから多くの体験談を伺い、オーストラリアならではの経験や日豪の文化的な違い、日豪双方の魅力を再認識することができた。まだオーストラリアと日本という国について深く知ることができておらず、知った気になっているだけだということを実感した。
(佐々木隆之介)
ANA(全日本空輸株式会社)
※同記事は、2月16日から2週間にわたり、日豪プレスのインターンシップ・プログラムに参加した東京経済大学の学生7人が取材しインタビューを行ったもので、下記より他の記事も確認できる。