ブリスベンの皆既月食の夜、祖国日本からある人のことを思う/タカ植松のQLD百景 第55回

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ブリスベン郊外の空

Text: Taka Uematsu  Photo: Sally Yukie Inaba

 3月3日、ひな祭りの夜に皆既月食が重なった。日本帰国中の筆者はあいにくの天気でせっかくの機会を楽しめなかったが、ブリスベンやその近郊は晴天に恵まれたようで、FacebookやThreadsなどSNS上で月食の奇麗な写真があふれた。

 とは言え、もしブリスベンにいても皆既月食の夜空を楽しく見上げることはできなかったはずだ。と言うのも、同じ日の日中に悲しい“虫の知らせ”があったから。ある知人の1日前のSNS投稿に目が留まり、誰かをトリビュートするような内容に「もしや、これって……?」と、ある共通の知人の顔が浮かんだ。瞬時に「縁起でもない」と自分自身で打ち消したが、口の中に苦い得も言われない感覚が残った。

 どうにも嫌な感じだったので、複数の知人にそれとなく聞いてみても、その日は何の確証も得ないままだったが、翌日になってその人が亡くなったとの知らせが届いた。残念ながら、虫の知らせは当たったのだった。

 その亡くなられた知人、仮にAさんとしよう。Aさんとは、昨年末、あるイベント会場でばったり再会した。闘病中とは聞いていたが思っていたより元気そうだし、すごくポジティブな言動に安心していたのだが……。Aさんには、ブリスベンに来てすぐのころ、いろいろとお世話になった。家も近かったので、地域のことやコミュニティーのことなどさまざまなことを教わった。本を貸し借りしたり、お届け物でご自宅に数度伺ったりもした。その後、少し疎遠になっていたが、折に触れて顔を合わせてきた仲だった。

 実際にAさんが天に召されたのは皆既月食の夜ではないようだ。それでも、訃報を知ったタイミングもあり、Aさんをよく知る人びとの中にも赤銅色の月を見上げながら、Aさんのことを思った人も少なくないだろう。

 古来、月食は不幸をもたらす忌むべき存在だったが、今では天体ショーとして観察を楽しむものとなった。ただ、今回に関しては、ブリスベン日系社会に大事なコミュニティーの成員の早過ぎる死という悲しい知らせをもたらした。

 今後も月食を見るたびに在りし日のAさんを思い浮かべるだろう。Aさん、どうぞ安らかにお眠りください。

植松久隆(タカ植松)

植松久隆(タカ植松)

ライター、コラムニスト。ブリスベン在住の日豪プレス特約記者として、フットボールを主とするスポーツ、ブリスベンを主としたQLD州の情報などを長らく発信してきた。2032年のブリスベン五輪に向けて、ブリスベンを更に発信していくことに密かな使命感を抱く在豪歴20年超の福岡人





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