忘れられた記憶を未来へ──The 25th Biennale of Sydney/NSW州立美術館ボランティア・日本語ガイド便り

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執筆者=吉澤なほみ

 2年に1度の現代美術の祭典「第25回シドニー・ビエンナーレ」が開催されています。芸術監督を務めるのは、アラブ首長国連邦出身のキュレーター、フール・アル・カシミ(Hoor Al Qasimi)。彼女は昨年開催された第6回国際芸術祭「あいち2025(Aichi Triennale 2025)」でもディレクターを務め、地域社会や歴史との対話を重視しながら社会的課題に向き合う展示企画で注目を集めています。

Hoor Al Qasimi (Photo: Daniel Boud)

 今回のテーマは「Rememory(リメモリー)」。この言葉はノーベル文学賞作家トニ・モリスンの小説「Beloved」に由来し、忘れられた過去や語られてこなかった歴史を呼び戻し、記憶の継承や再解釈を通して未来を見つめ直すという意味が込められています。

 1973年の創設以来、シドニー・ビエンナーレは130以上の国から2400人以上のアーティストの作品を紹介してきました。世界各国のアーティストやキュレーターが参加する、革新的なアートのプラットフォームとして知られる国際的な現代アートのイベントです。今年は世界37カ国から83組のアーティストが参加し、主要会場の1つであるNSW州立美術館では、「土地」「文化」「歴史」の関係を示す作品が紹介されています。

Installation view of the 25th Biennale of Sydney, ‘Rememory’, at the Art Gallery of New South Wales, 14 March – 14 June 2026,  artworks © the artists, photo © Art Gallery of New South Wales, Felicity Jenkins

 中でも大きな存在感を放つのが、床一面に広がる巨大な絵画 「Ngurrara Canvas II」です。約80平方メートルに及ぶこの作品は、西オーストラリア州のグレート・サンディー砂漠地帯に暮らす先住民コミュニティー約40人の長老たちによって共同制作されました。

 水場や聖地、祖先から受け継がれてきた土地の物語が描かれていて、土地と人びととの深い結び付きを表現しています。もともとは土地権利(Native Title)の証明のために描かれた作品で、今回の展示はこの作品を見る最後の機会とも言われています。

Installation view of the 25th Biennale of Sydney, ‘Rememory’, at the Art Gallery of New South Wales, 14 March – 14 June 2026, featuring art by Kulata Tjuta and Frank Young, commissioned by the Biennale of Sydney and Fondation Cartier pour l’art contemporain, artworks © the artists, photo © Art Gallery of New South Wales, Felicity Jenkins

「Kulata Tjuta(Many Spears)」はアーティスト、フランク・ヤング(Frank Young)とアナング地域のコミュニティーによる共同プロジェクトで、1500本に及ぶ手作りの槍によってアーチ状に構成された大規模なインスタレーションです。

 槍はコミュニティーの人びとが伝統的な技法で制作したもので、狩猟や儀礼、そして文化と知識の継承を象徴し、先住民文化の力強さとコミュニティーのつながりを伝えています。

 会場はその他、White Bay Power Station、Chau Chak Wing Museum、Campbelltown Arts Centreなど複数カ所に広がります。

 シドニー・ビエンナーレの魅力は作品の展示だけでなく、音楽やパフォーマンス、ワークショップ、アーティスト・トークなど、多彩なイベントや参加・体験型プログラムも数多く企画されています(特別プログラムを除き多くは無料)。

 多様なアーティストの思い描いた「リメモリー」を通して、さまざまな文化や歴史の視点に触れる貴重な機会となるでしょう。

「Rememory」シドニー・ビエンナーレ 2026

会期:開催中〜2026年6月14日まで
NSW州立美術館会場
 Naala Badu(北新館)地下1階
 Naala Nura(南本館)地下1階
入場:無料
※詳細は美術館公式サイト(https://www.artgallery.nsw.gov.au/whats-on/exhibitions/25th-biennale-of-sydney)をご確認ください。
※シドニー・ビエンナーレはNSW州立美術館ほかWhite Bay Power Station、Chau Chak Wing Museum、Campbelltown Arts Centreなどシドニー市内、近郊各所の複数の会場で開催されています。イベント情報など詳しくは公式サイト(https://www.biennaleofsydney.art)をご確認ください。

常設展:無料日本語ハイライト・ツアー

【Naala Nura(南本館)】
毎週金曜日午前11時から。集合場所はインフォメーション・デスク前

【Naala Badu(北新館)】
毎週日曜日午後1時から。集合場所はエントランス・パビリオン

Art Gallery of NSW

ニュー・サウス・ウェールズ(NSW)州立美術館。南本館に加え、日本人建築家ユニットSANAAのデザインによる北新館が2022年12月に新築オープンした。常設展は入場無料。

開館時間:10AM~5PM(水曜日のみ10PMまで)。
Webwww.artgallery.nsw.gov.au
日本語サイトwww.artgallery.nsw.gov.au/visit/plan-your-visit/information-in-other-languages/japanese

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