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「グリーン」水素を通じて次のゼロ・エミッション革命を作り出すには?(前編)

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BUSINESS REVIEW

会計監査や税務だけでなくコンサルティングなどのプロフェッショナル・サービスを世界で提供する4大会計事務所の1つ、EYから気になるトピックをご紹介します。

「グリーン」水素を通じて次のゼロ・エミッション革命を作り出すには?(前編)

 地球上で最も豊富に存在する元素は水素ですが、クリーン・エネルギー源として活⽤することが実現可能かどうかについて数十年にわたって議論が重ねられた末、ようやく注目を集めつつあります。

 エネルギーに関する議論では、長い間、木材、天然ガス、石油、電気などが中心でした。最近になっても、脱炭素化の主役争いでは、コスト、テクノロジー、安全性の面から、グリーン水素は現実的な候補に挙がらないことがほとんどです。グリーン・エネルギーの取り組みのほとんどが、太陽光・風力・地熱に関するものでしたが、各国が国際的な脱炭素目標を達成するためには、再生可能エネルギー・システム(RES)を利用して大規模な電化を実現する必要があります。

 技術が進歩し、コストが下がるにつれ、持続可能でグリーンな社会の実現という世界的な目標を達成する上で、グリーン水素がより重要な役割を果たす可能性が出てきました。

水素ビジネスのバリュー・チェーンに携わる各種プレーヤーの事業機会

 水素は水素のままで、あるいはアンモニアに変換して、既に産業利用されています。そのため、製造(主に炭化水素の水蒸気改質や酸化)、バーチャル・パイプライン(トラック)、工場に近接した貯蔵所を中心としたバリュー・チェーンが既に構築されています。

 その一方で、よりグリーンなエネルギーの生成が求められる他、取引量の増加が予想されること、更に用途が新たに生まれたり拡大したりすることで、セクターの現在の構造を改革する必要が生じるでしょう。その結果、以下のような投資機会がバリュー・チェーン全体にもたらされます。

  • 新たな水素製造技術
  • 配送と流通に伴う新たなビジネス・モデルやソリューションの勃興
  • グリーン・エネルギー源としての新たな用途市場の開拓

 もし実現されるなら、グリーン水素はさまざまなセクターの脱炭素化に貢献し、発電や輸送からエネルギー、工業用原料に⾄るまで、バリュー・チェーン全体に数多くのビジネス・チャンスを生み出します。

製造される水素は3つの「⾊」に⼤別され、「グリーン」に分類できるのは限られた製法で製造された水素のみ

 無尽蔵な資源である水素は、世界にエネルギーを無限に供給できる可能性を秘めています。さまざまな資源を原料として場所を選ばずに製造することができ、現場でも流通先でも使用できるなど、水素には数多くのメリットがあります。また、燃焼セルで酸素と反応させると、温室効果ガスの排出量を抑えながら電気エネルギーを発生させることもできます。

 しかし、最後の段階では排出量がゼロであるとは言え、環境へのやさしさを⽰す水素の“グリーン度”は、水素製造の原料によって異なります。水素の脱炭素化が可能かどうかを大きく左右するのは、その製造方法と原料となる天然資源です。

  • 化石燃料を原料とする水素は「グレー」に分類される
  • 化石燃料が使用されていても、製造プロセスでの⼆酸化炭素排出量を抑制するために⼆酸化炭素の回収・貯留(CCS)策を講じていれば「ブルー」に分類される
  • 水と再生可能エネルギーを原料として電解槽に電力を供給することで生成され、製造プロセスが完全にグリーンで持続可能なものである場合は「グリーン」に分類される

 現在製造されている水素は、ほぼ全てが「グレー」水素であり、主にアンモニアと肥料の製造の他、石油の精製に使用されています。

3つのビジネス・モデルと、それぞれ異なる「グリーン」水素サプライチェーンの選択肢

 「グリーン」水素の製造方法は幾つかありますが、実用化という観点から考えると、用途が最も広いのは電気分解です。ただし、最大のチャンスは「グリーン」水素の製造と流通にあります。

 「グリーン」水素はエンド・ユーザーのニーズや規模、現在あるいは将来利用可能な技術に応じて、3種類のサプライチェーンのモデル(①オンサイト・プラント・モデル:利用現場での製造、②オフサイトでの製造と流通(現地以外での製造と流通)、③分散型製造と域内流通)があります。

課題:「グリーン」水素のすばらしさは認めるが、コスト高

 「グレー」水素を「グリーン」水素に替え、産業・業務用途や発電・燃料電池用途を拡大する上での最大の障壁は製造コストです。「グレー」水素や「ブルー」水素と⽐べ、グリーン・エネルギーの製造には現在、⾮常に多額のコストが掛かります。その大きな製造コストの差を縮めることに求められる要素は、電解槽に関する技術革新コスト改革、再生可能エネルギーに関する製造・供給コストの低下、CO2排出コストの上昇の3つです。

水素の⽤途は広い

 さまざまな業界において特に水素に期待される用途は5つあります。

1. 発電(水電解法による水素製造と電力利⽤):

 水を生成する際と逆の変換(電気分解)によって、必要に応じて水素を製造し、電力としての利用が可能になります。その手法であれば、必要な時にエネルギーを供給することが可能となる上、長期的な耐久性・信頼性を鑑みると、電力貯蔵に対するニーズを解決する新しいソリューションとなります。更に再生可能エネルギーが抱える不安定な発電量がもたらす発電と電力利用時間のズレを解決し、安定化させるための手段にもなります。

2. (自動車など)輸送機械の燃料電池:

 一般消費者に最も近い用途として、水素は自動車を始めとした輸送車輛のエネルギー供給用途があります。

3. 工業原料:

 水素は、エネルギー源としての気体というだけでなく、その化学反応力を生かしてさまざまな工業用途で利用されている化学元素でもあります。既に製造プロセス・フローの中で水素を使用している代表的なセクターは、石油精製・鉄鋼生産です。

4. 産業⽤エネルギー・水素発電(専焼・混焼)

 天然ガスの代替として水素を燃やしたり、天然ガスと水素を混ぜてタービンを燃焼させることによって熱や電気を作ることができます。重要なのは、水素と天然ガスで密度や発熱量などの特徴が異なることですが、設備の変更や投資を行うことで、置き換えが可能になります。温室効果ガス排出量を大幅削減できるため、環境への好影響は明らかです。

5. 建物の空調管理の熱源:

 上述の産業用と同様、水素を住宅・施設(住宅、学校、病院など)の空調用途に用いることができます。

 次号は、引き続き「グリーン」水素の課題と「グリーン」水素の導入を加速させるために必要な要素について解説します。

■参考Web: www.ey.com/ja_jp/strategy/how-hydrogen-can-spark-the-next-zero-emissions-revolution

解説者

篠崎純也

篠崎純也 EYジャパン・ビジネス・サービス・ディレクター

オーストラリア勅許会計士。2002年EYシドニー事務所入所。日系企業や現地の企業の豊富な監査・税務経験を経て、現在NSW州ジャパン・ビジネス・サービス代表として日系企業へのサービスを全般的にサポート。さまざまなチームと連携しサービスを提供すると共に、セミナーや広報活動なども幅広く行っている。
Tel: (02)9248-5739 / Email: junya.shinozaki@au.ey.com

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