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分裂に直面する大労働組合

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政局展望ナオキ・マツモト・コンサルタンシー:松本直樹

つい数年前に、合併を通じて規模や財政力を大きく拡大させたばかりの新巨大労働組合「建設・森林・海運・鉱業・エネルギー組合」(CFMMEU)だが、早くも分裂の危機に見舞われている。セッカVIC州支部書記長率いる、CFMMEU内建設労組の影響力低下は必至の状況である。

CFMMEUの誕生

2018年3月、連邦労使機関である公正労働委員会(FWC)が、左派系の「建設・森林・鉱業・エネルギー組合」(CFMEU)と、同じく左派系の「豪州海運組合」(MUA)からの申請を受け入れ、両労組の合併を認めるとの決定を公表している。

その中でFWC副委員長は、今回の認可については、CFMEUやMUAの「遵法精神の欠如」を否定するものと解釈すべきではない、とわざわざ言及すると共に、ただし現行法制下では合併を容認せざるを得ないと述べるなど、合併問題への判断が苦渋に満ちたものであった点を強調している。

いずれにせよ、強力かつ好戦性をもって鳴る労働組合の中でも、とりわけ「悪名高い」2労組の合併(注:実際には繊維・衣類・履物組合も加わった3労組の合併)、そして新巨大労組CFMMEUの誕生は、ビジネス界、産業界を大きな不安に陥れるものであった。

CFMMEU建設労組のセッカVIC州支部書記長(本人ツイッターより)
CFMMEU建設労組のセッカVIC州支部書記長(本人ツイッターより)

深刻な労組内闘争の発生

ところが鳴り物入りで誕生したCFMMEUも、その直後から深刻な労組内闘争に見舞われている。何よりも、CFMMEU建設労組のセッカVIC州支部書記長による、いわゆる「デマケーション」(注:縄張り争い)的活動によって、CFMMEU内が紛糾したことが大きい。

しかも、「強面」の建設労組に対する、CFMMEU内の従来からの反発、闘争は、CFMMEU全体のトップである実力者のオコーナー全国書記長と、セッカとの間の個人闘争にまで発展している。

その背景には、セッカによる細君への家庭内暴力事件が明るみになった際に、オコーナーが公然とセッカを擁護しなかったことをセッカが逆恨みし、オコーナーへの攻撃を強めたとの事情がある。

ちなみにセッカの家庭内暴力事件は、結局、連邦野党労働党のアルバニーゼ党首による、セッカの党籍剥奪という事態にまで発展している。建設労組の実力者とはいえ、セッカの政治的影響力は、主として労働党を通じてのものであり、党籍剥奪によって、少なくともセッカの政界での影響力はかなり低下することとなった。

モリソン保守政府の対応

一方、CFMMEUの誕生を許したとして、産業界から批判を浴びていた連邦保守連合政府だが、その後も事態を静観していたわけでは決してない。

実際に19年の8月には、CFMMEUを強く牽制する保守政府の重要労使法案が下院で採決に附され、可決されている。同法案は、主として「遵法精神の希薄な」建設労組や建設労組専従員をターゲットとしたもの、要するに、CFMMEUの行動に重大な制約を課すものであった。

具体的には、FWCに対して、公共の利益の観点から問題労組の合併を阻止し、また公共の利益に反する労組の登録抹消を可能にする、更に遵法精神を欠く「札付き」の労組専従員/幹部を更迭する権限を与えるものであった。そして、法案成立の鍵を握る上院「その他」議員のほとんど全員が法案に前向きであったことから、成立する公算が高いと見られていたのである。

ところが、19年の末に開かれた連邦議会において、上記法案はモリソン政府の期待や自信も空しく、上院で否決されている。その後も政府は、同法案を諦めるつもりは更々なく、今後も上院での可決を目指すとしていたものの、上院で否決されたことは反CFMMEU陣営には手痛い出来事であった。

一方、年が明けて20年に入っても、依然としてCFMMEUのセッカの影響力は強く、しかも内部闘争は修復の見込みが付かないほどにまで悪化し、大物労組幹部が指導ポストから辞任する事態となっている。

すなわち、昨年の11月にCFMMEU製造業部門トップの同部門書記長で、しかもCFMMEU全体のトップでもあるオコーナー全国書記長が、全国書記長ポストから辞任することを表明している。また翌12月には、CFMMEU鉱業・エネルギー部門の議長で、CFMMEU全国議長でもあるマーが、CFMMEU内はもはや修復が不可能なほどに分裂、かつ機能不全に陥っていると強調しつつ、CFMMEU全国議長ポストから辞任することを表明している。

労組分離法案の成立とCFMMEUの行方

ところが、こういった、一見すると反セッカ陣営には不利な状況の中で、連邦保守政府を始めとする反セッカ陣営にとり、起死回生の出来事が起こっている。

それは、セッカを「共通の敵」と位置付ける保守政府のポーター労使関係大臣(兼法務相)と、CFMMEU前議長のマーが協調、共闘して、セッカ率いる建設労組を標的とした新たな公正
労働法の改正法案を練り上げ、しかも野党労働党の支持を取り付けた上で、同法案を昨年の最
終議会で早々と成立させたことであった。

具体的には、現行法では正式に合併してから向こう5カ年は、合併労組の一部が分離、再独立することは禁じられているのだが、これを改正して、分離を希求する労組は、FWCに分離の是非を問う労組員の投票を申請し、FWCが審査した上でこれを認可して、仮に支持が多数となれば、当該労組の分離、独立を認可できるというものである。

周知の通り、20年に入って以降は、言うまでもなくCOVID-19問題という、「100年に一度」の大イベントが発生したことから、保守政府の政策路線、政府法案の策定、追求スケジュールも大きく変更されている。

ただ、感染問題への経済対策である雇用の維持や創出、景気回復における建設部門の重要さに鑑(かんが)み、労使政策、建設労組対策は、以前よりもむしろ緊急性や必要性が高まったとも言える。

そういった環境の激変の中で、政府は上述した建設部門、建設労組への対策法案についても反故(ほご)にすることを余儀なくされたわけだが、同法案に替わり、政府がより効果的との信念のもと、最近になって採用したのが、CFMMEUの激越な党内闘争を活用して、内側から同労組を破壊するとの戦略であった。

要するに、法改正を通じ合併労組の分割を容易にして、巨大労組の力、影響力を削ぐとの戦略、そして比較的「善玉」のCFMMEU森林、製造、鉱業、エネルギー部門労組を切り離し、遵法精神の希薄な「悪玉」の建設及び海運部門労組を孤立化させると共に、攻撃目標を明確にするとの戦略の採用であった。

改正法案の成立で今後CFMMEUが分裂することになれば、建設労組の影響力も大きく阻害されることとなろう。

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