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政府が中国の対豪投資案件に拒否権

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政局展望ナオキ・マツモト・コンサルタンシー:松本直樹

フライデンバーグ財務大臣の決定

これは、中国の国策建設企業である中国建設エンジニアリング公社(CSCEC)が計画していた、豪州の建設企業プロビルド(Probuild)を3億豪州ドルで買収するとの計画に(注:プロビルドの親会社は南アフリカ企業)、連邦政府が待ったをかけたというものである。正確には、政府が案件申請に国益審査などの観点から拒否権を発動することを示唆した結果、CSCECはフライデンバーグの正式な決定、公表前に、同案件の認可申請を取り下げている。モリソン政府が反対する理由だが、まず御多分に漏れず、中国のCSCECが中国の人民解放軍や中国国防産業と密接なつながりを持っていることから、プロビルドの買収を通じて、豪州側のセンシティブな情報、データが、中国側に筒抜けとなる恐れがあることが指摘されている。他方で、プロビルドがビクトリア州警察の本部ビルの施工を担当し、また世界的にも評価の高いバイオテック企業のCSL社(注:COVID-19ワクチンも生産中)の入るビルの建設を請け負っているとの事情もある。そのため、スパイ行為や重要情報の漏洩が、蓋がい然性の高い現実の問題として懸念されていたのだ。

豪州の外国資本規制レジーム

豪州という国は、外国の資本によって、あるいは外国資本のおかげで造られた国と言っても過言ではない。ただ、歴史的に海外の資本に大きく依存せざるを得なかった豪州だが、外国資本の豪州への直接投資に関する審査制度は依然として保持し続けている。豪州の対外国資本規制レジームは、「1975年外資乗っ取り防止法」という法律と歴代連邦政府の外国資本政策という、2つの主要フレームワークによって規定、構成されている。最重要な外資乗っ取り防止法は、連邦財務大臣に外国資本投資案件を審査する権限を与えており、同法が設定する各種の「敷居」を超えた投資案件に関しては、投資を計画する事業体に対し、その内容を政府に事前通告する義務を課している。一方、政府系ファンドや政府系企業による直接投資案件については、その投資規模に関わらず、審査の対象となる。また外資乗っ取り防止法は財務相に対し、いわゆる「国益審査」に基づく拒否権(Veto)、すなわち豪州の国益に反すると判断される投資案件を拒否する権限を与えている。

一方、政府の外国資本政策を規定した文書には、2つの中核的な指針が記されている。すなわち、国内経済の発展に資する外国資本の対豪投資を奨励する一方で、それが、外国資本の豪州資産保有に対する国内コミュニティーの関心、懸念にも十分に配慮した形で行われるようにする、というものである。

そういったバランスを取る手段が国益審査であるわけだが、実は同審査の内容を扱った政策フレームワークの中の規定も、意図的に極めてあいまいもこ広範、かつ曖昧模糊としたものになっている。それを通じて、審査決定に際しては、政府財務相に広範な裁量権、恣し意いの余地を与えているのである。

豪州外国資本審査レジームの中核機関であるのが、連邦財務省傘下の外国資本審査委員会(FIRB)である。提出された投資案件の審査業務を実際に行うのは、FIRBと、同委員会を支える財務省の官僚スタッフであるが、ただし、FIRBは公式にはあくまで政府への諮問機関に過ぎず、外資乗っ取り防止法によって投資案件への許認可権が与えられているのは財務相本人である。

保守連合政権の最近の動き

豪州の建設企業「プロビルド」のホームページ
豪州の建設企業「プロビルド」のホームページ

2013年9月に保守連合政権が誕生して以降、中国資本の問題、中国からの対豪投資問題が大いに注目されてきたが、その中でも特筆に値するものとして、ターンブル保守政権が、豪州の第5世代通信網整備プロジェクトから、中国系大手通信企業ファーウェイを締め出したことが挙げられよう。首相就任時には「親中派」と見なされていたターンブルだが、中国系企業の対豪州投資については、一貫して慎重な姿勢を採り続けてきたのである。

その背景には、悪化する一方の南シナ海における中国の傍若無人(ぼうじゃくぶじん)な振る舞い、豪州国内政治や国内世論形成への中国の介入、影響力の高まり、中国からの不正なサイバー活動やサイバー攻撃、中国の「一帯一路」構想/戦略への懸念、とりわけ豪州の「裏庭」である南太平洋島嶼しょ国への中国の経済/政治介入、といった事実により、豪州国内でも中国への警戒感が大き豪州の建設企業「プロビルド」のホームページその背景には、悪化する一方の南シナ海におく高まりつつあったとの事情がある。

一方、18年8月には、自由党内の「お家騒動」でターンブルが失脚し、後任の首相には「棚ぼた」の形で、ターンブル支持者であったモリソンが就任している。そしてモリソン保守連合政権で、重要な財務相に抜擢されたのが、同時に自由党副党首にも選出されたフライデンバーグであった。上述したように、ターンブル政府は、中国資本に対しては総じて硬派路線を採用してきたのだが、この路線は財務相から首相となったモリソンはもちろんのこと、新財務相のフライデンバーグにもそのまま踏襲されている。

ただ昨年の半ばになると、間違いなく制度的にも一層強硬なものとなっている。すなわち、昨年初頭から本格化したCOVID-19の世界感染の発生源問題を巡って、豪州と中国との関係は、両国国交回復後の過去半世紀の中でも最悪の状況となっているが、そういった最中の20年6月に、モリソン政府が、「1975年外資乗っ取り防止法」を改正する旨、公表したのである。しかも政府は、今回の改正内容は75年に同法が施行されて以降で最大、すなわち過去45年間で最大の変更と主張していた。

そういった大幅変更の背景として、政府は、最近の海外からの投資が純粋に商業的な目的や動機に基づくものから、より戦略的な考慮、思惑に基づくものへと変化してきたことを挙げていた。他方で、豪州を取り巻く戦略環境は厳しさを増しており、それが国家安全保障の観点からの外国投資案件の精査や規制を強化した変更の理由としている。またモリソン政府は、安保要因を重視した外国資本規制は、米国や英国、日本、NZといった民主国家が、共通して実施しているものとも述べていた。

その後、改正法案は無事成立し、今年の1月1日より施行されることとなったが、今回の建設企業買収を巡る一件は、変更レジーム下で拒否権が発動された初のケースとなる。

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