第72回 日豪プレス法律相談室
“EMOJI” ~顔(絵)文字で名誉棄損?
裁判所ではこれまで何度も、名誉棄損に関する「語句」が中傷的かどうかの議論がされてきましたが、昨年にニュー・サウス・ウェールズ州地方裁判所で行われた、Twitterで“口にチャック顔”の絵文字1つを使ってリプライした人が名誉棄損で訴えられた裁判で、Gibson判事が“印象”テストを適用、豪州で初めて「絵文字」で中傷的な意味合いが伝わるかどうかの判断(=絵文字も名誉棄損になり得る)を下しました。
原告に関して自由に話せる立場ではなかった被告がTwitterのリプライ(とやり取りの中)で使用した絵文字(口にチャックの顔文字)は、一般のTwitterユーザーに「話せない何かがあること」を暗に伝えるには十分で、原告の名誉を傷つけた、と判事は判断しました。
これを聞いて「どうでもいい裁判だ」と感じましたか?米国には反スラップ(SLAPP)法といって、個人の言論の自由が脅かされないために不当な訴訟が起こるのを防ぐ法律がありますが、豪州には、人権擁護法案の一部に限定的な規則はあっても、相応する法律がありません。
その一方、豪州には興味深い制度があります。高等裁判所が問題を起こす“訴権乱用者”を指定・宣言することができ、そうした訴訟者たちは裁判所の許可なしに訴訟を起こせないことになっているのです。
これまでで最も有名な訴訟常習者は、1987年のメルボルン乱射事件で26人を殺傷した大量殺人犯のJulian Knightで、彼は10年以上にわたり40件の訴訟を起こし、2016年に訴権乱用者に指定されました。この出来事は、精神医学文献の中でも「不平行動」と呼ばれました。
しかし、絵文字が日常的に使われる今日、不用意に使った絵文字によって名誉毀損で訴えられる類似の裁判が今後も起こると思われます。モバイル・デバイスごとに絵文字の描写が異なったりすることが原因で、問題(訴訟)が起きるかもしれません。最後に大切なルールを1つ。~つぶやく時(Tweet)は一旦考えてから~
このコラムの著者
ミッチェル・クラーク
MBA法律事務所共同経営者。QUT法学部1989年卒。豪州弁護士として25年以上の経験を持つ。QLD州法律協会認定の賠償請求関連法スペシャリスト。豪州法に関する日本企業のリーガル・アドバイザーも務める。高等裁判所での勝訴経験があるなど、多くの日本人案件をサポート。